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2 森下君の救済活動

「いよいよ機種変か…… 」


 アイディはため息をついた。しょうがない。オクオスの腹があれでは……。

 しかし、自分はそのまま変わらず「ノゾミの部屋」のNO.1ホストのままだろう。機種が変わっても、グールルアカウントの存在は変わらないから。僕、アイディとアカは安泰。さらに僕はメインのアカウントだ。機種変しても、誰も僕を脅かすことはできない。

 アイディは初めてのノゾミの機種変更にも余裕の表情を見せていた。





「ねー、P-phoneにしようよ、ノゾミ~」


 サークル仲間の田原愛弓がP-phoneに変えろとうるさい。


「そうだねー、贅沢にこのまま機種変して、P-phoneも持つとか。憧れの2台持ち」

「ノゾミ、金持ち~~」

「でも、実際無理かな。お金ないし」


 スマホをポチポチ押しながら、二人はカフェで会話を楽しんでいた。


「そういえば、ノゾミが中学で片思いしてた森下君って、彼女と別れたんだって」


 ノゾミはその言葉に心臓が跳ねた。


(森下君……好きだったなぁ……)


 ノゾミと森下真実(まさみ)は、中学三年の時のクラスメートだ。彼はノゾミの淡い片思いの相手だった。田原愛弓は、森下君とは高校が一緒で、よく彼の噂は愛弓から仕入れていた。

 しかし、今まで告白することもできず、ただ思い続けるだけだった。









 中学三年生の9月。ノゾミは、クラスで三人組のグループにいた。目立つ方でも地味な方でもない三人組。

 ある日、何故か他の二人から話しかけてくれなくなった。話しかけても無反応。二人から冷たい視線と空気を感じる。

 本能的に自分は何かやらかしたと悟った。

 もう秋。全ての女子はグループが出来上がっているので、私は一人で過ごすことが多くなった。


(なんだろう……何かしたんだろうか)


 日中、一人でいると耐え難い視線が過剰に突き刺さる。ゆえにトイレに頻繁に行ったり、うろうろ校内を歩くことが多くなった。

 数日一人でいると、他の女子グループの「今さらグループ内に入れたくない」という空気を感じた。無視し続けている二人は満足気に私を観察している。何かしでかしたとしても、ここまでひどい扱いを受けるいわれはない。悔しくて涙が込み上げてきた。


 すると、ある男子数人が近寄ってきた。


「次、実験室に移動だよ。ほら、上杉さんも行くよ!」


 そのグループは増田君、笹川君、森下君のグループだ。そして、増田君はとにかく学年内でも人気があった。顔も成績も良く面白い。まるで漫画だった。


 私がそのグループと廊下を歩いてると、

「何あれ、増田君と喋ってる女子」

「あんな子、あのクラスにいたっけ」

「いいなぁ~、一瞬でいいから増田君の視界に入りたい」


 なんだかいろんな女子の声が聞こえてくる。

 私はとにかく目立っていることに恐怖を感じた。

 わかっている。

 この世界は目立つと攻撃されるのだ。

 私をグループから外した女子二人も驚いた様子だった。


 実験室では、班に分かれて作業する、と先生から指示を受けた。6人グループに分かれて作業するらしい。

 その時も増田君グループに声をかけられ、一緒に班を形成した。あと二人必要なので、ここぞとばかりに、無視している女子二人が加わってきた。

 共同作業していると、彼女達と話さないわけにいかないので、最低限の会話をして、実験を進めていた。

 それよりも、増田君と話せる方が彼女達は重要なのだ。

 その時、森下君が無視している女子二人組に話しかける。


「時間って有限なんだよね」


 女子二人は急に森下君が口を開いたので、驚いて彼の方に顔を向けた。


「誰かをイジメて、そいつが学校来なくなったら、クラス全体で『アンケート』とか書かされたり、全員が個別で事情聞かれたりするんだろ?」


 女子二人は、不機嫌そうな表情になった。


「俺達の貴重な時間取らないでくれる? なあ、増田もそう思うだろ?」

「あ、ああ……そうなると少し面倒だね 」


 増田君は、ちょっと躊躇(ちゅうちょ)して答える。


「これからもお前達が上杉さんのこと無視するなら、俺達が救済するだけだけど」

 森下君が邪魔くさそうに、無視女子二人に忠告した。

 その二人のうち一人が、森下君に一番中学男子が恐れている質問をする。


「何? 森下君はノゾミのこと好きなんじゃないの?」


 森下君は、一瞬目を見開いたが、すぐにこりと笑って、その発言をした女子の目線にあわせて、彼女の顔近くでつぶやいた。


「俺はお前みたいな性格悪い女子がタイプだけど」


 すると、その女子は一気に顔が高揚して、言葉を失った。

実験中だが、その森下君の告白にクラス全体が騒然となる。

先生は慌てて、静かに作業するように注意した。

 その後、森下君は私に向き直った。


「お前も頑張れよ」


 そう言って、笑った。

 その時、世界が真っ白になった。


(ヤバい……。これはしばらく捕らわれる。)


 直感した。そして、その直感は的中した。

 見事にずっと片思いするはめになった。

 小心者の私は、中学で告白できず、高校も別々になってしまった。噂では、高校で彼女ができたとも聞いた。

 私は彼にとって、とるに足らない小さな救済者だったのだ。

 その後、彼はBandroidユーザーでオクオスを使っていると情報を得た。


 ーー あれからずっと、このスマホを使っているから、もう4年かあ……。もう彼のことは良い思い出として、P-phoneにしようかな。でも、彼を忘れることなんて、できるんだろうかーー


 

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