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花梨

作者: いだすけ
掲載日:2026/03/29

貴方が笑っていればそれでいいと思う。

これは嘘じゃない。笑っている貴方が何よりも好きだ。

貴方の笑顔が見られればそれでいいと思っている。

ネタじゃない。虚言でもない。

だってそうだろう。

そういう人が、あたしみたいなのにも一人くらい居たっていいだろ。

けど、好けば好くほど、そんな自分が嫌になる。

しかし灰色の花に実る訳が無い。

結実の日が来る訳も故も無いのに、高嶺の白い花をただただ見つめる自分に嫌気が差してくる。

そんなもの、ただの自己愛だろう。

棘に刺さりたくないから、見つめるだけ。

しかし、見えている棘に触れたい人間がどれほど居るものだろうか。

誰かが言う声が聞こえる。

けれど、そうしなければ何も進まないものだろう?

そんなことはわかっている。

勇者という紙の上の人たちは、きっとそんな棘で作った傷が沢山あるのだろうから。

傷のひとつもないあたしなんて、そんなこと考える権利さえないのだろうに…。


そんな自分はお上品な人間だと思ってた。

そりゃまぁ、誰だって考えることかもしれないけど。

けど筆を取るたびに、それが鮮明になっていく。あるいは鮮明になってしまう。

思い出したくない。思い出したくない。

けども脳の中にはべっとりと染み付いている。

剥がれない。剥がせない。

剥がそうとすると痛い。

そりゃあそうだ、自分自身だから。自分の脳を自分で剥いだらまぁ多少は痛いだろう。

結局、無理に剥がそうとするだけ無駄で、どうせ剥がせないのだから諦める。

そして今日も昨日も不貞寝する。

すると睡眠中の無意識下で発生する記憶の整理中に、べっとりと張り付いてくる。

至極簡単に言えば夢に出てくる。

小難しく言う必要性など何も無いのだが、あえて回りくどいことを言いたい気分にもなる。

おかしい、理解出来ない。

指と指が絡みついてくる。

悔しくなる。何でこんなことになる。

そうして目を覚ますと、旋毛から足の爪までにびっしりと汗をかいている。

そして少しの嗚咽が静かな真夜中に混ざる。

自分はそこまでして…。

後に残るのは激しい嫌悪感と、隙間に挟まる嘲笑。そしてうっすらと積もる白い快感。


そうして雪のように冷たくなって、見捨てられた気持ちさえ凍り付いてしまえば良い。

それが一番良い。

叶わぬのだから、それで結構。

冷たくなって諦めるくらいが関の山。

そうじゃないか。それが一番、誰に取ってもしあわせなのだろう。

それで諦められない自分に呆れてしまう。

分かりきっているのに、頭の中を巡る回路に、諦めという単語が一向に出てこない。

貴方があたしのことを見る日をずっと待っている。

どうしようもなく情けない。

それでもいつかその時まで、貴方のそばにいるから。

邪魔だと思わなければ、ただそこに居させて。

居させてよ。

それで、邪魔になったら捨てて。

そんなぞんざいな扱いでいいから。

都合良く使って捨ててくれればいいから。

鼻をかむちり紙よりも軽くていいから。

お願い、お願いだからそばに居させて。


貴方の傍に居られれば、それだけで楽しい。

つまらそうして冷たくなって、気持ちさえ凍り付けば良い。

それが一番良い。

叶わぬのだから、それで結構。

冷たくなって諦めるくらいが関の山。

そうじゃないか。それが一番、誰に取ってもしあわせなのだろう。

それで諦められない自分に腹が立つ。

分かりきっているのに、頭の中を巡る回路に、諦めという単語が一向に出てこない。

自分自身に怒りが湧く。

貴方があたしのことを見る日をずっと待っている。

どうしようもなく情けない。

それでもいつかその時まで、貴方のそばにいるから。

邪魔だと思わなければ、ただそこに居させて。

居させてよ。

それで、邪魔になったら捨てて。

そんなぞんざいな扱いでいいから。

都合良く使って捨ててくれればいいから。

鼻をかむちり紙よりも軽くていいから。

お願い、お願いだからそばに居させて。


そばにいれば、それだけで楽しい。

酒のつまみにもならないような、他愛のない話でいい。

なんなら話してくれなくたっていい。

隣でなくてもいい。肌と肌が触れる必要なんて少しもない。

例えばそう、貴方がどこか彼方へと送る目線の動きが、若干解るだけの場所でいい。

誰かを、あるいはどこかを見るその視線だけで良い。

全てはそれで足りるから、それ以上なんて望まない。望めないから。望むべくも、望むわけも無い。

望む、意味も無い。

ただ少しだけ、少しだけでいい。

少しだけでいいから、あたしに気付いて欲しい。

あたしはここにいるんだって、貴方は分かりきっている。分かりきっているでしょう?

嘘じゃなく、虚言じゃなく、貴方とあたしはそんなに遠い存在じゃない。

欺瞞でも、自信でもない。事実。

そのはず。

ねぇ、貴方が呼び捨てにして、軽く小突くくらいに気を許せる相手なんて、そう居ないでしょう?

そうだって、言って欲しいの?

あたしは、そうだって言って欲しいの?

答えは帰って来ない。水底へでも沈んでしまったように冷たい。

そうしていつしか言の葉は凍りついて、徒花さえも咲かせず朽ち果てるのでしょう。

あぁ、もし徒花だけでも咲くのなら、貴方の瞳の中に少しでも映るのでしょうね…。


けれど、貴方に貰った花梨の喉飴だけは、未だに口に放る気が起きない。

口に放っても、吐き出してしまいそうな気がする。

口に放って溶かせる頃には、貴方への気持ちさえ無くなってそうで。

少なくとも、時間ばっかりかけて醜く膨れたこの感情が、飴玉ひとつ溶かした程度で無くなるわけも無いのだろうけれど。

そんな分かりきっていることでさえ、自分にとっては感情を抑えるためのよすがであるのだろう。

たまに古びた飴玉の袋を、手の上で転がしてみるのだ。

そうすると意外な程に心の根っこを強く掴まれる。

そうして明日が来るのでしょう。

また立ち向かわなければならないのでしょう?

貴女に振り向いて欲しいとは思わない。

思わないようにしている。


あたしの人生で最も素晴らしいことは、貴女に会えたこと。

あたしの人生で最も憎らしいことは、貴女に惚れたこと。

そうしてきっと腐り落ちるまで待とう。

いいよ。

待つのも、我慢するのも、慣れてるから。

だからさ。

傲慢だけど。

なんかあったら言ってよ。

あたし、貴女のことならなんでも知りたいんだ。

好きだから。

それだけ。

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