貴族令嬢 vs ラ・ムー
ごめんやす。
うちは京都で貴族令嬢やらせてもろてる「白い定休日」と申します。
よろしゅう頼みますえ。
好きな曲はクリームの「White Room」どすえ。
これ以上、雅な京都弁で書き続けると読者も読みづらいだろう。ここからは通常の言葉で語らせて頂く。
業務スーパーは激安だと思われがちだが、案外そうでもない。品質の割に安いのは確かだが、品切れと冷凍食品の多さに企業戦略が垣間見える。おそらく在庫を抱えないことでコストダウンを図っているのだ。倉庫より売り場を広げる方針なのだろう、違ってたらお許しやす。
なお、業務スーパーとは名乗っているが、業者はここで買わない。個人経営の飲食業者であっても、通常は卸し問屋と取引している。問屋は卸売市場で仕入れた食品を巨大な冷凍庫に集め、肉・野菜・調味料など注文に応じ契約した業者の店舗にルート配送する。街中を走る白く小さな冷凍車がそれだ。問屋の食材は驚くほど安く、少量であっても配送するが一般家庭とは取引しない。
それでも店舗の食材が足りない時は、業者が個人的に業務スーパーへ買いに来ることもあるだろうが、食品業界の流通として普遍的ではない。
話、戻しますえ。
郊外に店舗を構えるラ・ムーは駐車場が広く、京の貴族令嬢・白い定休日は牛車で来た。十二単 (じゅうにひとえ) を引き摺りながら彼女は店内へ入る。
「なんとまあ シンプルどすな 内装が」
白く明るい店内。整然と並べられた商品。ワサビはあれど侘び寂びなど皆無。清潔感は溢れるが、ディストピア感は否めない。恋愛系サウンドノベルの安っぽい背景的というか、奇妙な非現実感が漂っている。
「安かれど 白く輝く お肉どす」
安い。とにかく安い。比べてみてください。看板に偽りなし。これ以上安いと不安になるが、正直既に不安である。我ながらスーパーマーケットマニアな筆者から見ても安い。これは食費が浮くのも納得。とはいえ肉と野菜の品質を見れば……なるほど。グレードを少し下げて、値段も下げているようだ。
プライベートブランドの多さも安さの秘訣だろう。業務スーパーも同じ戦略を取っているが、外注がメイン。対してラ・ムーは自社工場で作られているのか、さらに安く当たり商品も多い。ただし、外れも多い。特にアイスモナカ、中身スッカスカ。
「右大臣 総菜コーナー ご覧あれ」
付き従う右大臣、下の句を返す。
「値段と量が いとをかしけり」
特筆すべきはお惣菜の安さ。筆者はたまにヒジキやオカラが無性に食べたくなる衝動に悩まされる。しかし案じるなかれ、ラ・ムーはそんな私に100円前後で処方箋を出してくれるのだ。安い、が、それ以上に量が多い。マジで多い。お総菜とお弁当は激安で物量作戦、米軍を前にした山本五十六の苦悩もうかがえよう。
ご馳走が欲しいのなら違う店に行けばいい。しかしコンビニで買うくらいなら、お総菜とお弁当は断トツでラ・ムーをおススメしよう。良い意味での企業努力がうかがえる。安くて美味くてお腹いっぱいにさせようとするラ・ムーの意思が感じられるはずだ。
店内に流れる、妙な歌。
♪らぁー・むぅー
創業者が「幸福の科学」の熱心な信者であるラ・ムーは、なるほど曲のセンスにそれが表れている。歌ってる人は菊池桃子ではない。熱心な宗教信者は勧誘が嫌なので距離を空けたくなるが、真面目で良い人が多く安心感がある。それはラ・ムーの商品にも好印象を与え、値段や品質が低くても、決して悪い物は提供しないだろうという信頼につながっている。
なお、筆者は無神論者であり、スピリチュアル系が苦手である。しかしリアル知人からは富野信者と呼ばれている。とはいえGレコはついていけなかった……
「おばちゃん、なんで変な服着てるのー」
「あらいやだ 元気で素直な お子さんえ」
「ねー、なんで、なんで」
店内を走り回る子どもに話しかけられ、般若のような笑顔で返す白い定休日。金髪の母親と刺青の父親が頭を下げて子供を下がらせる。ラ・ムーとドン・キホーテの客層は重なってる所がある。24時間営業が多いので、深夜の客層は特に顕著である。
◇◇◇
ラ・ムーに併設された「パクパク」という名の店舗は100円でタコ焼きやタイ焼きが売っているので常に行列。そこで買ったソフトクリームを食べながら白い定休日は帰路についた。牛車の中でブルートゥーススピーカーからクリームの「White Room」が流れている。白い定休日が詠む。
「右大臣 エリック・クラプトン あはれかな」
字余りだと思いながらも右大臣はうなずいた。白い定休日が下の句も詠む。
「特にこの声 雅なりけり」
右大臣、ここにきて一句。
「お嬢さま 歌っているのは ジャック・ブルース」
白い定休日、顔を背ける。
「いけずやわ 知ってますわよ そんなこと」
牛車はゆっくり歩を進める。
なお、パクパクは24時間営業ではない。
あと連載中の貴族令嬢料理大会、もうすぐ終わるけど良かったら読んでね。
おはり。