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第九十三話 音楽団の一員として

「何をどうやって調べると?」

「具体的な話は脇に置いておこうぜ。まずはポリシーの話だ。そちらさんの志からすれば、俺様の提案は決して悪いものではないと思うんだが、どうだ?」

「お引き受けします」


 リラはにっこり笑って見せた。

 満足そうに口元を歪めたメトゥスとは対照的に、アルは驚きと不安を滲ませてリラをちらと見る。


「私も、聖女の力と霊銀薬の違いについて知りたいと考えていました。聖女としては不完全な私ですが、それでも何か発見を得られて、それによってより多くの人々が救われるのなら、それ以上の喜びはありません」

「そうか、そうか。聖女と言うのは聞きしに勝る人格者ってことだな。恩に着るぜ、聖女リラ。アルの大将も、そういうことで構わねぇかい?」

「……あぁ。本人が望んでいることであれば、問題はない」


 メトゥスが満足そうに頷く。


「もちろん、協力してもらう分の報酬は弾ませてもらうぜ。それに、おたくらの本来の活動に支障がないよう、ウチに来てくれるのは一日に二時間程度で構わねぇ。基本的に俺様はここに居るから、都合のいいときにいつでも足を運んでくれ」


 話がまとまり、フォルミードの館を出て、建物の陰が戻ったあたりで、アルとトリステスが同時にリラの方に向き直った。


「さぁ、リラ。どういう意図か、話してくれるな」

「フォルミード商会が霊銀を使って瘴疽を引き起こす毒を造っているという話を忘れたの? まさか、彼が語っていた、世の為人の為という言葉を真に受けたわけじゃないでしょう」


 リラは二人を交互に見て、きっぱりと口を開く。


「もちろん、信じていません。でも、チャンスだと思ったんです」

「チャンス?」

「彼の研究に協力するということは、彼が研究している場所に入れるということです。であれば、霊銀を用いて瘴疽をもたらす毒を造っている、という証拠を掴むことも出来ると思いませんか」

「それは、そうだが……」


 表情を曇らせるアルに、リラが続ける。


「毒だけじゃありません。大聖堂とのつながりを証明するものが保管されている可能性だってあります。どちらも、ロクス・ソルスにとって大きな外交材料になりますよね」


 雄弁なリラに圧倒されて、思わずアルとトリステスは顔を見合わせた。


「まさか、君がそこまでロクス・ソルスのことを考えてくれているとは……いや、だが、しかしな……」

「私も、ウェルサス・ポプリ音楽団の一員として、出来ることをしたいんです」


 アルを見つめてリラは続ける。


「今までは、一員のつもりで、でも違いました。皆さんの使命を知らなかったから。だけど、今は違います。私、本当の意味で皆さんの仲間になりたいんです」

「リラ」


 トリステスがリラの頬にそっと手を当てる。


「貴女はずっと、私達の仲間だったわ。密命について知っていた、知らなかったという差はあったかもしれないけど、それによって貴女が一人仲間外れであったとは思わないで」

「はい……でも、やっぱり、私に出来ることがあるのなら、ちゃんと皆さんの役に立ちたいんです」

「皆さんの、なのか、大切なアルの、なのか、はてさてどっちかしら?」


 リラが顔を赤くする。


「恋する乙女は強いわね。アル。リラの性格上、こうなってから引き下がることはないと思うわよ」

「ああ、そうだろうな。俺もそう思う。仕方ない、表向きはメトゥスの研究に協力しつつ、霊銀による毒造りの証拠を押さえる大役を、リラに担ってもらおう。うまくいけば、フォルミード商会の悪行を白日の下にさらし、この街における発言力や求心力も地に落とせるかもしれない。少なくとも、この街の状況が健全なようには見えないからな」


 緊張しながらも晴れ晴れとした顔でリラが頷く。


「だが、当然一人では行かせられん。俺も護衛として同行する」

「そうするべきだわ。そして、くれぐれもこちらの意図が悟られるような言動は避けて頂戴」

「それはもちろんそうするが、何か、特別に心配なことでもあるのか?」


 アルの問いに、トリステスが声を落とす。


「あの場にいた、初老の男を見た?」

「初老の男……?」


 どうやらその存在に気付いても居なかったらしい二人を見て、トリステスは警戒感を強める。


「息をするように気配を殺し、アルにすら存在を気取られなかったほどの手練れが、あの場に居たということよ。私だけが気付いていたのは、同じ穴の狢だからか、一度顔を合わせていたからか、あるいは――」

「トリステスにだけ、何らかの目的で意識を向けていたから、か」


 トリステスが頷く。


「何にせよ、かなりの危険に飛び込むことになる、ということよ。くれぐれも気を付けてね、リラ、アル」

「……はい」

「それはいいんだが、どうも最近、お前もモディも、リラに対しての方が優先順位が高くなっていないか? 今も、名前を呼ぶ順番が――」

「さ、まずは一度帰って、色々と準備をしましょう。リラにも、いざという時のために護身用の術をいくつか仕込んでおいたほうがよさそうだし」

「よろしくお願いします」

「まぁ、いいんだがな……」


 仲良く並んで歩き始めたリラとトリステスの後ろを、苦笑しながらアルも続いた。

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