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第九十二話 商会の頭目

 翌朝、リラ、アル、そしてトリステスの三人は、モディとベルム夫妻に見送られてフォルミード邸へと足を運んだ。

 場所はゲンマの街の東の外れで、大通りを歩いていくと建物が一度途切れた。


「街を仕切っている一族なのに、こんな端っこにお宅を構えているんですね」

「暗殺に備えて、でしょうね」


 トリステスの声に冷たい響きを覚えて、リラがごくりと喉を鳴らす。


「周囲に何もなければ、ある程度の安全は確保されるし、対抗策も取りやすい。この街で権力を握るということは、死と隣り合わせということなのかも」

「霊銀を密輸している商会だという時点で、まともな相手ではないのは分かっていたことだ。だが、初めから事を構えるつもりはない。あくまでも、丁重にな。最大限の敬意を持って接しよう」


 アルの言葉に二人は頷いた。

 フォルミードの館は、真っ白い外壁のあちこちに金の装飾が施されていた。建物自体は全部で三棟あり、それぞれが独立している。手前に二つ、そして奥に一つという配置だ。

 正門と呼べるような部分はなく、手前の二つの建物にはひっきりなしに人が出入りしていた。格好から見て、どれも商人と思しき姿だ。

 館に勤めているらしい一人を見つけ、アルが声をかける。


「申し訳ない。俺達は旅の者だ。高名なフォルミードの当主殿に一度お目通り願いたいのだが、可能だろうか」

「少々お待ちください」


 男は奥の建物へと消えていき、数分後、アル達の案内に戻ってきた。

 黒光りする金属製の扉が開くと、中はまるで王城にある謁見の間のようになっていた。中央奥に玉座があり、入り口からそこまでは真っ青なカーペットが敷かれている。

 玉座には、メトゥス=フォルミードと思われる人物が足を組んで座っていた。


「よく来てくれた、歌姫を有する音楽団の諸君」


 手招きに応じて、三人は前へ進んだ。

 メトゥスは、浅黒い肌を露わにし、上半身には何も纏っていなかった。しかし、金色の装飾品を首にも腕にも指にもいくつも身につけ、そのほとんどに濃い青色の宝石がはめ込まれている。太陽の下に立てば、目もくらみそうな姿だ。

 その隣には、女が一人居た。鮮やかなピンク色に染められた髪は長く伸び、下着のような薄い衣だけを纏い、褐色の肢体をくねらせ、メトゥスによりかかるようにしている。豊満な胸部はこれ以上ないほど強調されており、アルはそれを見て顔を顰め、リラは思わず目を逸らした。

 金に包まれた男は、女をそっと引き離して玉座を降り、ステップも降りて、三人と同じ場に立った。


「歓迎するぜ。俺様が、メトゥス=フォルミードだ。このテラ・メリタにおける最大の商圏を誇る、フォルミード商会の頭目をやっている」

「アルと申します」

「トリステスと申します」

「リラでございます」


 三人が深々とお辞儀をするとメトゥスは大きく声を上げて笑った。


「ハァッハッハッハ!! そんなにかしこまることはねぇぜ。おたくらの活躍ぶりは俺様の耳にも届いている。ステラ・ミラで多くの人々を救い、このテラ・メリタにおいてもサクスムにおいて耳目を集めた噂の集団、ウェルサス・ポプリ音楽団。今や、おたくらを邪険に扱うことなど誰も出来やしねぇ」


 数え切れないほどのアクセサリーをジャラジャラ鳴らして、メトゥスは続ける。


「聞けば、あのナトゥラとも仲良くやっていたとか。聞いたかもしれんが、俺様とナトゥラの奴は無二の親友。奴がおたくらを歓迎したとあっては、俺様としても歓待しないわけにはいかねぇ。気軽に振舞ってくれ」


 意外だ、とリラは表情を変えないままメトゥスを見ていた。

 ナトゥラの口ぶりではあからさまに敵対しているのかと思っていたが、そうでもないのだろうか。それとも、商人だから、例えお互いに快く思っていなくても、一応は仲の良いふりをするのだろうか。

 リラの視線に気付いてか、メトゥスがリラを見た。そして、その瞬間、リラは強い不快感に襲われた。恐怖ではない。浄化する際、瘴気に近付いたときに感じられるような、得体の知れないくらい感覚。思わず、固い唾を飲み込む。


「ここに来た目的は、なんだ?」

「この街における音楽活動の許可をいただきたい」

「構いやしねぇさ。このゲンマの街は、自由を貴ぶ。力がある奴は、存分に力を行使すればいい。俺がこの街におけるあらゆる決定権を預かっているのも、そもそもが財力という力があるからに他ならねぇしな」


 だが、とメトゥスは続けた。


「たったの三人で音楽団ってのは、少々寂しくねぇか?」

「本来は五人いる。一人の体調が悪く、もう一人が面倒を見ている状態だ。それで、今は俺が団長を代理している」

「そうか、そうか。そいつは難儀な話だな。ナトゥラのとこが色々と世話を焼いてはいるんだろうが、俺の方も何かと手回しは出来る。遠慮しねぇで遊びに来てくれ」


 アルとメトゥスが話している間、トリステスは背中に冷たい汗を感じていた。

 広間に、昨夜の老人の姿を見つけていたからだ。

 おそらく、自分と同じような務めを果たしている者だ。つまりは、暗殺者という側面を持っている。しかも、実力的には、自分よりも上かもしれない。


「ところで、もうひとつ、おたくらに遊びに来て欲しい理由があるんだが、聞いてくれるか?」


 アルは小さく首を傾げ、先を促した。


「俺様は常々、霊銀の新たな可能性について研究していてな。いつか聖女の浄化の力についても調べ、それを霊銀薬に応用できないかと常々考えていた。そこに、おたくらの話を小耳にはさんだ。なんでも、そこのリラってのは聖女だっていうじゃねぇか。是非、その力をもって俺の研究に協力しちゃくれねぇか? 世のため、人のためと思ってよ」

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