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第四十四話 聖女とは

「ラエティティア殿、リラ殿。お疲れさまでした。本日の患者をもって、我々聖騎士団が抑えている瘴疽患者はゼロになりました」

「ペリスの街の浄化完了! ってとこかな」


 聖騎士の報告を受けて、駐屯所でラエティティアが声を弾ませる。その使命感に満ちた笑顔を見て、リラも満足げに笑みをこぼした。


「街の規模を考えると、患者さんの数はすごく少なかった気がする。普段からラエが頑張ってた証拠だね」

「えっへっへ~。でも、街の人達の話を聞いたら、リラ達音楽団の歌を聞けば瘴疽が治るらしいっていう噂はすっかり広まってるみたい。だから、実際にはリラの歌で浄化された人達がたくさんいて、そのおかげでここに足を運ぶ人が少なかっただけじゃないかな」


 南方のデンスの街でも、同じようにたくさんの人を浄化して回ったが、かなりの時間を要した。後半は『聖歌』の力が噂になって聞きに来てくれる人も増えたが、それまでは街中を練り歩いて歌って回ったのだ。


「私達がペリスの街に来てから、それほど日数は経っていないはずだけど……」

「でも、この街に来るまでにかなりの日数を要したでしょ? リラ達がゆっくり歩いてる間も、街から街へ、人も物も情報もすごいスピードで行き交ってるんだから。歌で瘴疽を浄化させる旅の聖女なんて、話題としては最高のネタじゃん」


 軽快に笑うラエティティアだが、さっきまで浄化に当たっていたのだ。鈍い痛みが感覚としてまだ残っているのは間違いない。

 私が歌えば、ラエは苦しい思いをしなくて済む。

 リラがそう言っても、彼女は頑として断った。

 自分は聖女だから。

 ラエティティアはまっすぐな瞳でそう言った。

 彼女をサポートするために、リラも随分久しぶりに通常の浄化を行いもした。だが、こなした数はラエティティアの方が圧倒的に多い。


「痛む?」

「そりゃもう。だって、見てよコレ」


 ラエティティアが右の手を返し、リラに『銀の爪』を見せる。見たところ、爪が輝きを残しているのは親指だけだ。だが、彼女にはまだ、もう片方、左手に五本の『銀の爪』がある。

 親友の言葉の真意が掴めず首を傾げるリラに、ラエティティアは息を吐きながら言葉を紡ぐ。


「ほら、もうこんなに力を使っちゃったから……あ、でもまだ左手もあったんだった。よかった~、ボク、『半聖女』じゃなくて~」

「もうっ!」


 じゃれあう二人を見ながら、アルとムスケルは笑っていた。


「毎日のことながら、本当に仲がいい」

「まったくだわ。見てて恥ずかしくなっちゃうくらい。でも、助かったわ~、リラ嬢が浄化を手伝ってくれて。ラエティティア嬢って頑張りすぎちゃうところがあって、力の限界まで出し切るのが普通になっちゃってるから」

「リラにもそういう部分がある。聖女とはそういうものなのかもしれないな」


 だが、とアルは続けた。


「街全体の瘴疽患者を癒し終えたということは、俺達は次の街へ行くということになる。あの二人を分かつことになるのは、少々胸が痛むな」

「何言ってるのよ、アルちゃん。生きてさえいれば、また会えるんだもの。そして、貴方の力があれば、リラ嬢を護ることなんてワケないでしょ?」


 だといいんだが、とアルは遠慮がちに呟いた。

 剣術には自信がある。

 自分に剣の手ほどきをしてくれたのはベルムだった。当時、叩き上げで王国騎士団の中隊長の座を得ていた彼が父の命で指南役となり、長年師事した。ベルムの実力は王国内で五本の指に入ると評判で、実戦さながらの厳しい鍛錬には随分痛めつけられたものだ。だが、その甲斐あって若輩に似つかわしくない剣捌きを身に着けることが出来、今では師であるベルムを相手にしてもほぼ負けなくなった。

 だが、とアルは思う。

 ムスケルは、ドラゴンを相手に一対一で切り結び、時間を稼いだという。かなりの実力者だ。同じことは自分にも出来るとは思うが、それ以上のことが出来るかというと難しい。それほどの使い手がいること自体、あまり考えてこなかった。今回は彼が味方だったからよかったが、もしも悪意を持った敵だったらどうだったろう。これから旅を続ける中で、想定していない脅威に出会うことはあるかもしれない。そのとき、自分はリラを守り切れるだろうか。


「あら、どうしたの。怖い顔して」

「いや……なんでもない」

「アルさん、お待たせしました」


 リラが支度をしてアルのところへ駆け付けてきた。その顔には満足そのものがあらわれている。


「今日で終わりとのことで、連日の護衛ありがとうございました」

「護衛というほどのことはしていないよ。それじゃあ、一度宿に戻って、この街最後の公演の準備を――」

「あっ、待って待って!」


 すぐ傍で話を聞いていたラエティティアが手を挙げた。


「ちょっと、ボクからアルさんに話しときたいことがあるんだけど、いい?」

「ラエ?」


 首を傾げるリラに、ラエティティアがにやりと口を曲げる。


「心配しなくても、取って食べたりしないって」

「食べはしなくても、戦棍バトルスタッフでひと試合くらいはしそうだもの」

「長くなるようなら、アタシがリラ嬢を宿まで届けるわよ」


 ラエティティアはムスケルの申し出をありがたく受け入れ、リラを見送った。アルは成り行きに任せ、太陽色の聖女が口を開くのを待った。

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