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第百五十五話 婚礼といえば

「驚いたな。大聖堂の長が、そこまで不逞の輩だったとは――」


 心配そうなアルの視線を受けて、リラが首を傾げながら言葉を紡ぐ。


「私が居た頃は、そこまでじゃなかったような気がするんですけど……会ったことがあるのが一、二回なので、運が良かっただけかもしれませんが」

「悪事に手を染めている内に、どんどんタガが外れていったんでしょうね」


 続けて口を開いたのはトリステスだった。呆れたような、しかし驚きはしていない顔つきだ。


「そもそも、他国の王女を手籠めにするなどという不埒な企みなんて、少し考えれば到底不可能だと分かりそうなものでしょう。でも、一度狂った良識では判断できなかったに違いないわ。権力に溺れた者の末路の典型ね」


 こくこくと頷いてから、ラエティティアが言葉を次ぐ。


「結局、プドルは知らない、知らないって言い張ってたけど、みっともなく泣き叫んで連れていかれたんだ。聖女の言葉に重きありってワケじゃないけど、あれだけの人数に指さされたら、何もないはずないし」

「連れていかれたって、どこに?」

「王様んとこ。謁見の間で必死に弁明するプドルに、王様はそりゃもう怒り心頭で、その場で切って捨てるんじゃないかっていう勢いだった」

「家臣を信じて政を委ねていたわけだからな。裏切られたとあっては、レックス王も穏やかではいられないだろう」


 リラは首を傾げた。


「ステラ・ミラの国王様のこと、ご存じなんですか?」

「幼少の砌に一度だけ、剣の手ほどきを受けたことがある。性根が武人だと自覚しているから内政は頼れる家臣に任せようと思っていると、笑っておられた。それで、法王はどうなったんだ?」

「ま、極刑は決まってるようなもんだけど、一応は監獄に入れられたよ。ただ、結構な人数の貴族がしょっぴかれたから、あちこちが忙しさにてんてこまいになってて、裁判だの処刑だのは先のことになりそうだ、ってウィルトゥス様が言ってた」


 でも、と聖女が続ける。


「そのせいで、ウィルトゥス様とヴィア姉の婚礼も先延ばしになっちゃったんだよね。ボクも知らなかったんだけど、月末には正式に結婚の手続きをする予定だったみたいだから、それについては申し訳ないっていうか――」


 そこまで言って、ラエティティアはハッとしてリラを見た。ぎくり、とリラが目を逸らす。


「婚礼といえば、リラ! 呼び方を気を付けなきゃとかなんとかって、もしかして、アルさんと結婚するの!?」

「えっと――……」

「否定してもいいわよ、リラ。公衆の面前で、しかも民衆が見守る中求婚されて、頷いて応えたのを婚約と言わないんだったらね」

「ト、トリステスさん――」


 リラが顔を真っ赤にして俯くと、次に口を開いたのはムスケルだった。


「でもまだ、見たところ指輪はしてないみたいね。アルちゃん、それは男としていただけないんじゃない?」

「ああ、もちろん分かっている。本来は、ちゃんと指輪を用意してから伝えるつもりだったんだが、勢い余ってしまってな。だから、都に戻ったら、グラディウスに頼んでとびきりのものをあつらえてもらうつもりだ」

「あら、天下の名工つかまえて、武具じゃなくて指輪を造らせるの? 贅沢ねぇ。ついでにアタシの装備一式もお願いできないかしら。出来たら恋人も都合してくれたらありがたいんだけど」


 ムスケルが笑うと、周囲は笑い声に包まれた。

 そこからは、公の使者による報告というよりも、親しい友人たちの談笑へと転じていった。特にラエティティアは、ペリスの街で別れて以降のリラの身にどんなことが起きたのか、根掘り葉掘り聞きたがった。


「え~、じゃあ、サクスムって街では、テラ・メリタで一番のお金持ちにも言い寄られてたってコト?」

「大変だったんだぞ、ラエティティア。リラときたら、ナトゥラの誘いには乗る、手には触れさせる、食事に行けば遅くなると、君があの場に居れば、心配を通り越して怒り心頭になっていたはずだ」


 わざとらしく肩を竦めてみせたアルに、リラは頬を膨らませた。


「もう、やめてくださいよ! そう言うアルさんだって、あの時点ではまだ素性を明らかにしてなかったのに私の――」


 リラが慌てて口を抑える。

 その様子を見て、ラエティティアが睨んだのは、リラではなくアルだった。


「私の?」

「あ、いや――」


 ラエティティアの視線がリラへと移る。


「私の?」

「え、えっと――」

「そうだ、ムスケル殿。ファルサとインユリアの処遇をどうするべきか、そちらの意見を聞いていなかったな」

「この話の流れで聞くことかしらねぇ。まぁ、あのふたりについては血判状にはっきりと名前が記されていたから、罪人として裁判に出頭させたいっていうのがこちらの意向よ。ただ、ロクス・ソルス領内における行動についての懲罰はそちらの裁量になるから、アルちゃん達の方で首を刎ねるっていうなら、それでおしまいになるけれど」


 ふむ、とアルが息を吐く。

 ちらとリラを見て、彼女の表情が曇っているのを確認し、言葉を次いだ。


「そちらに引き渡そう。領内で勝手な動きをしたのは事実だが、それによって民の命や貴重な資源が失われたわけではない。親愛なるステラ・ミラの厳正な法が、あの二人に然るべき処分を下してくれることを信じている」

「承ったワ。まぁ、おそらくファルサの方は、死罪にはならなかったとしても、おばあちゃんになるまで冷たい壁の中にいることになるでしょうね」

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