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第百四十九話 覚悟の告白

「アルドール様が帰還されたぞ!」

「ひい、ふう、みい――おいおい、誰一人欠けてないんじゃないか?」

「大地の裂け目に入って、全員が無事に帰ってくるなんて、奇跡だぞ」

「ステラ・ミラの聖騎士達は、怯えに怯えて、ケツをまくって逃げてきたってのに」

「アルドール殿下、バンザーイ! ロクス・ソルス、バンザーイ!!」


 スピーナの街は、谷底の実態調査を成功させたアルドール王子と、それを実現させた最大の功労者リラに対する賞賛の声で溢れた。

 多くの労いの声と喝采に包まれて、騎士団は借宿へと戻った。ほとんどの騎士達は一時的に鎧を脱いで体を休め始めたが、アルを含む数人は、すぐさま施設の広間へと足を向けた。その中には、ラティオをはじめ、金鹿聖騎士団に所属する者達もいた。

 そこで待っていたのは、青白い顔をしてうなだれた、三人のステラ・ミラの聖騎士達だった。


「生きて戻ったのは、これだけなのか……?」


 生還した仲間の人数を見て、ラティオは愕然とした。三十人いたはずの聖騎士が、ラティオ自身と、行動を共にしていた三人とを合わせても七人だけだ。前例のない被害だった。


「各団長と聖女は?」


 ラティオの問いに、一人が首を横に振って応えた。


「そんな――」

「ラティオ殿」

「は、はっ!」


 アルドールの呼びかけに、ラティオはあらためて姿勢を正し、それからすぐに膝をついて首を垂れた。


「顔を上げてくれ。谷底から共に戦い、帰還した仲間だろう」

「しかし――」

「それに、金鹿聖騎士団においては、専属聖女であったリラを護り支えてくれていたと本人から聞いた。そのような人物ならば、俺にとっては古い友人と同じだ。顔を上げてくれ」


 ゆっくりと立ち上がったラティオは、その途中で、傍らに立つリラの胸元に真っ赤な宝石の首飾りが光っているのに気が付いた。まるで、目の前の王子の瞳のように鮮やかな赤だ。

 そうか。

 そういうことか。

 このふたりの関係性が、ようやくわかった。

 リラは、金鹿聖騎士団を離れた後、縁に恵まれてこの国に辿り着いたのだ。そして、ここには彼女の真価を見出せる人物がいたのだ。


「つらいだろうが、出来れば、貴殿ら聖騎士団が、わざわざ連合してまでこのロクス・ソルスに足を運んだ経緯を教えてもらいたい」

「はっ」


 ラティオは、自分が知っていることを包み隠さず語った。

 法王プドルが宮廷内を牛耳り、何らかの私欲を果たすために今回の大遠征を仕組んだこと。

 遠征決定の決め手は、ロクス・ソルスの国王の崩御を見越していたからだということと、魔物が大量に発生する予兆を掴んでいたからだということ。

 本来ならそんな不確かな情報で物事が動くはずはないのに、ストゥルティ卿という有力な貴族をはじめ、追随する者が多く、ステラ・ミラの政治腐敗が甚だしいために実現してしまったこと。

 ストゥルティ卿の息女ファルサが連合軍の長になったのも、明らかな作為によるものであったこと。


「そのファルサ殿と法王殿には、何か繋がりが?」

「はい。この命を救われたことの恩を返すため、私はこれから、我が国の恥部を晒しましょう」


 続く言葉に驚きの表情を浮かべたのは、アルやリラ以上に、聖騎士の仲間達の方だった。


「これは、他の聖騎士達は知らぬことですが……プドル法王とファルサ団長、そして専属聖女のインユリアは極めて親しい間柄です。彼らは共謀し、テラ・メリタと霊銀の取引をしています。インユリアはそれにより霊銀薬を用いた浄化を繰り返し、いわば不正によって現在の地位を得ています。また、ファルサはそれを知りながら利用し、自らの騎士序列を二位にまで高めました」

「待て」


 アルが口を挟む。


「なぜ、いち聖騎士に過ぎない君がそんなことまで知っているんだ? 国の根幹に関わる情報ではないか」

「それは――我が国に巣食う邪な気配に気付いた、賢明な方がいらっしゃるからです。私はその方の求めに応じて、内々にそれらのことを調べる手伝いをしていました。名を、ラエティティアと――」

「ラエ!?」


 反射的に声を大きくしてしまったリラが、慌てて口に両手を当てる。


「リラ殿もご存知の方でしたか。考えてみれば、同じく聖女ですし、年の頃も近いですしね」

「ご存知も何も……」


 アルは笑いをこらえきれなかった。

 自分達は、今、ラティオから聞く以前から、大聖堂とテラ・メリタが霊銀の密輸をしていたという事実は把握していた。だが、まさかリラの無二の親友が、遠くに居ながらにして同じ真相を突き止めていたとは。

 二人の反応に首を傾げたラティオだったが、気を取り直して言葉を紡いだ。


「私達は、タイミングを見計らってプドルらの罪を糾弾しようとしていましたが、時既に遅く、こうして流されて遠征に出るところまで来てしまいました。もしかすればラエティティア殿が都で真相究明の動きを先に進めているかもしれませんが、現状は分かりません」


 わかった、とアルは深く頷いた。


「多大な覚悟の告白をさせてしまったな。君の身の安全は、ロクス・ソルスが保障しよう。まずはゆっくり体を休めてくれ」


 手近な兵を呼び、アルは傷ついた聖騎士達を休ませてやるよう指示を出した。彼らが広間を出たところに、ちょうど入ってきたのはトリステスだった。


「暗部の者から、話を聞いて来ました。どうやら、ファルサ達はここに来る前に都へ行ったものの、アイテール様に手ひどくあしらわれたようです」

「それで、何故ここに?」

「大地の裂け目に入り、援軍として我々を助けて恩を着せようという魂胆だったようです。結果的に支援どころか救助された上に、多くの貴重な命を散らしたわけですから、愚かな判断だったとしか言いようがありませんが」

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