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第百四十八話 久しぶりに

 王子の言葉の意味をしっかり理解できたわけではなかったが、ラティオは仲間達にそのように促し、自分もリラの傍に寄った。

 そして、すぐに意味が分かった。

 彼女の歌声を聞いていると、体に力がみなぎってくるのだ。


「失われた体力が、あっという間に戻ってきたようだ」

「聖女にはこんな力もあったのか」

「知ってたか」

「いや、聞いたこともない」


 仲間の会話に頷きながら、ラティオは、自分にとってはまさに失われたものが戻ってきたに違いないと思った。リラが金鹿聖騎士団に居てくれた頃は、この力の上乗せを常に得て戦線に臨んでいたのだ。それがあるのが当たり前だった。失って、そして、今こうして加護をもらって理解できた。リラは出来損ないなどではなかった。むしろ、他の誰よりも優れた力を持った聖女だったのだ。


「何泣いてんだ、若いの。どっか痛めてんのか?」


 大剣グレートソードを構えている大男――ベルムが、ラティオの背中をぽんと叩く。


「感動と失意で」

「そりゃ忙しいこった。ま、無理はしないこったぜ」


 ラティオの頭の中で、色々な事柄が繋がり始めていた。

 リラが在籍していた三年間、金鹿聖騎士団は一人の瘴疽傷病者も出さなかった。それを、あのファルサは自分の指揮能力によるものだと喧伝していたが、実のところは、ただリラの歌声によって守られていただけだったのではないか。

 そういえば、彼女が団を去ってすぐに、団員達が調子を落としていた。あれも、リラの歌の力が失われたために、それまで強化されていた分が損なわれ、本来の実力に戻ったに過ぎなかったのだ。

 リラは聖騎士団の足手まといなどではなかった。むしろ、彼女あっての聖騎士団だった。


「全体、止まれっ!」


 アルの声が響いた。

 一行に緊張が走る。


「気配がする」

「確かに、殺気、敵意が。でもどこから?」

「周りには何も――」

「――! 下だ! 全員、足元を警戒しろ!!」


 ぼこっ、と土が盛り上がったかと思うと、土の山はそのまま勢いよく高くなり、土くれがバラバラと飛散した。


「なっ、なんだ!?」

「トリステス、リラを頼む!」

「はっ!」


 パラパラと土砂が空を舞い、それまで居なかった影が姿を現した。赤褐色の胴体の先に頭はあるが、そこに目はない。


「蛇の魔物か」

「どっちかっつーとミミズだな、こりゃ」

「土から出てくるのも当然ってことか」


 突然の魔物の襲撃にも、騎士達はまるで動じていなかった。


「リラ、この魔物について知識はある?」

蠕竜ワームと呼ばれる魔物です。普通は単独で動くはずなのに、こんなに群れを成しているだなんて……」

「しかも、行きではなく帰りの道中を狙ってくるとは、それなりに賢しいようだな。リラ、くれぐれも――」

「モディさんが守ってくれるので、大丈夫です」


 リラは戦鎚メイスを構え、小型の丸盾を突き出して見せた。その様子に、アル、トリステス、そしてベルムがニッと笑う。


「皆さん、蠕竜ワームは体表が固く、生半可な刃は弾かれます! 気を付けてください!」


 リラはそう叫んだが、騎士達が剣を一閃すると、細長い胴体はあっけなく両断された。


「あれ?」

「おいおい、リラ。オレ達ロクス・ソルスの騎士の力をなめてもらっちゃあ困るぜ」

「リラの歌の効果で弱体化しているから、というのもあるでしょうね。取るに足らないわ」


 トリステスの言葉を聞いたベルムは何か閃いた顔になり、口に笑みを浮かべた。


「よう、アル・・。久しぶりにやるか」

「いいだろう。だが、せっかくの大部隊だ。やるなら全員で勝負といこう」


 アルが口を大きく開く。


「聞けっ! これより、何体の蠕竜ワームを屠ったか、数を競うこととする! この俺の記録を抜いた者には、褒美をくれてやるぞ!!」


 騎士達が威勢よく呼応すると、また、周囲の瘴気は晴れ、魔物もびくんと身を竦めた。


「ラティオさん」

「ああ。これほど練度が高く、勇猛な戦士達ははじめて見た。到底、敵わないな」


 ステラ・ミラの聖騎士達は、ロクス・ソルスの騎士達の動きを妨げないよう、細心の注意を払いながら、訓練通りの連携を再現しようと努力した。

 蠕竜ワームの群れと戦い、撃退しながら、一行は谷の入り口まで戻った。そして、斜面の始まりまでたどり着いた頃には、魔物の襲撃はすっかりなくなっていた。ただし、途中でいくつもの横たわる鎧を目の当たりにし、つい先刻前までは生きていたであろう者達の運命を慮った。

 その中のひとつを見て、リラがあっと声を漏らした。


「どうした、リラ――」


 アルが応えながら視線を動かすと、そこには白いローブを纏った影が横たわっていた。初めて会ったときのリラが、あるいはペリスの街で会ったラエティティアが着ていたものと同一のものだ。


「まさか……」


 ラエティティアの顔が頭をよぎった。

 違うよね。

 ラエじゃないよね。

 彼女でなければ問題ないというわけではない。それは理解している。ただ、それでも、親友の無事を願わずにはいられなかった。


「すぐ近くに倒れているのは、鎧を見るに聖騎士団長か。だが、ムスケル殿ではない。おかしな言い方だが、リラ、大丈夫だ」

「……はい」

「さぁ、あとは坂を登るだけだ。行こう」

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