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第百二十三話 持ちつ持たれつ

「ゴオオォォッッ!!」

「頭突きで脳震盪でも起こしたか。今、楽にしてやろう」

「グアァッ!?」


 アルが剣を構え直した瞬間、巨人が大きく仰け反った。

 また頭突きか――と警戒をしたが、すぐに違うと分かった。見覚えのある短剣ダガーが、巨人の目に突き刺さっている。

 勝機。


「ふっ!!」


 勢いよく踏み込み、剣を下段に構え、仰け反った巨人の腹を蹴って前に飛び上がる。眼前に喉元が迫る。アルは渾身の力を込めて、青緑の喉笛を掻き切った。


「コフッ――……」


 仰け反った勢いのまま背中から倒れた氷冠巨人フィボルグは、絶命による痙攣もなくぐったりと屍を晒した。

 アルは警戒を緩めず、剣を屍に突き付け続けた。

 やがて魔晶石が胸のあたりに結晶として形を表してようやくアルは構えを解いた。


「アルさん、あんたたいしたもんだ!」

「音楽団にしとくにゃもったいないよ、アンタ。どうだい、俺っち達と組んで魔物狩りやらないかい!」


 ランケアとサギッタがアルを称えて囲み、褒めたたえる。

 それを見ながら、トリステス、テスタ、リラが横に並ぶ。


「向かうところ敵なし、という感じね」

「凄まじい剣閃だ。人相手だけでなく、魔物を相手にしてもなんら翳ることがない」

「テスタさん、お怪我は大丈夫ですか?」


 すごすごとテスタを見ると、老人はそういえばと胸元に手を当てた。


「あらためて見ると、少々深いな。幸い――いや、リラの力のおかげで瘴疽には罹っていないようだが」

「ほら」


 トリステスがテスタに白い何かを手渡す。


「布に包帯か。用意のいいことだ」

「布には血止めの薬草が塗り込んであるわ。早く手当てをしてしまうことね」

「心得た。感謝するぞ、トリステス」


 壁の方に移動して服を脱いだテスタから視線を外し、リラはトリステスを見る。


「どうしたの、リラ。随分嬉しそうね」

「トリステスさんがテスタさんに優しくしてくれたので、ちょっと安心したんです」


 きょとんとするトリステスに、リラが笑う。


「テスタさんが旅に加わってから、トリステスさん、笑う回数が減ってたから。テスタさんに対して気を許せないのは仕方ないのは分かってたので、何も言えませんでしたが――」


 ぽん、とトリステスの手がリラの頭の上に乗る。


「心配かけてしまったわね。でも、たぶんもう大丈夫よ。安心して頂戴」

「あの――」


 リラは一度息を飲み、あらためて口を開いた。


「な、なんでも相談してくださいね!」

「フフ、そうね。そうさせてもらおうかしら」


 テスタが手当てをしている間、魔物狩りの二人は洞穴の様子を確認していた。

 それらが終わると、アルを先頭として一行は下山を始めた。

 小屋の場所まで行くと、他の魔物狩り達も大勢が集まっており、彼らによると一帯で人の行ける場所からは魔物を一掃したのだという。

 アル達は彼らに氷冠巨人フィボルグを討伐したことを伝え、さらに魔物を狩ることを望むならもっと上に行くしか無さそうだと伝えた。

 こうしてスティーリア氷山における魔物討伐行は終わりを迎え、ウェルサス・ポプリ音楽団の面々は無事にギプスムの町へと帰還する運びとなった。


「市長への報告は、おいら達がやっとくよ。あんたらは明日、あらためて顔を出すといい」

「手柄を横取りしたりはしねぇからさ。怪我人の爺さんもいるこったし、まずは休んでくれ」


 ランケアとサギッタはそう言って、足早に市庁舎の方へと歩いていった。

 リラ達は彼らの厚意に甘え、宿に帰り、何日かぶりに柔らかいベッドに体を沈めた。

 翌朝、テスタは宿で安静にした方がいいということで三人が市庁舎へ向かうと、ネニアはこれまでと同じように温かく歓待し、笑顔で彼らを迎えた。


「貴方達の活躍は聞いたわ。怪我人が出たということだったけれど、彼は大丈夫?」

「ああ、問題ない」

「死に場所を求めているご老体ですから、むしろ大丈夫でない方が良かったかもしれませんが」


 平然と言ってのけるトリステスに苦笑しながら、ネニアが言葉を紡ぐ。


「ランケアとサギッタが、貴方達のことを新たな商売敵だと言っていたわ。どうやら、目的は果たせたようね」

「貴女のおかげだ、ネニア市長。わざわざあの二人に同行を促してくれたこと、心から感謝する」

「持ちつ持たれつ、ということよ。むしろ、貴方達がこの街にもたらしてくれた功績を思えば、お返しとしてはまったく不足しているくらいだわ。もしも何か必要なものがあれば、声をかけて頂戴。個人的にでも、力になるわ」


 三人がそれぞれ笑顔で頷いて応えたのを見て、ネニアもまた柔和な笑顔を見せた。そして、あらためて口を開く。


「この街にはもう少し滞在を? それとも、すぐにでも発つのかしら」

「二日、三日は留まるつもりだ。テスタの傷は深くはないが、大事をとってな」

「そう――……」


 ネニアは何事か思考を巡らせているらしく、口元に手を当てたまま黙った。リラ達は彼女の言葉を待つしかなく、静かな時間がゆったりと流れる。

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