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4.

 まばゆさが落ち着き視界が戻ると、僕はまた函館山の上にいた。

 急に冬のしっかりとした冷気に当てられて心臓がきゅうっと苦しくなる。

 さむっ、と身を縮ませた。

 体が他の誰かにぶつかる。

 夜景の時間を迎えて山頂展望台は人だかりができていた。

 最前列から追いやられ、僕は少し引いた場所から展望台にできた人垣を眺めた。

 皆が皆、街の明かりを前に歓喜の声を上げている。笑顔に溢れ、一緒に来た家族や友人や恋人と幸せそうに見つめ合う。

 僕の人生が、こんな風に誰かを幸せにできるというのか。

 シロたちが言ったことが本当かどうかはわからない。そもそも夢を見ていただけなのかもしれない。

 だけど僕は今、この時間になっても生きている。

「すみません、すみません」

 人の波の隙間を縫って、僕は展望台の最前列、一人分だけ空いていたスペースに滑り込む。

 はっと吐いた息が白く舞い上がり一瞬僕の視界を隠したが、それが晴れてしまえばどうだろう。

 澄んだ空気の下、百万ドルと言われる函館の夜景が煌々ときらめく。

 くびれを作るように湾曲した左右の海岸線。北に向かって扇状に広がる大地には数多の光が散りばめられている。

 そのひとつひとつはもちろん街灯や家々の明かりなのだけれど、それをより強く輝かせるものがシロたちの言う通り僕から生まれるヒカリだとしたら。

 僕は手すりを掴む手に力を込めた。

 表面に残っていた見知らぬ誰かのぬくもりはとっくに消え、凍えるような冷たさを伝えてくる。それでも負けずにギュッと握った。冷え切った指先に熱が戻ってくる。ほんの少しだけど、確かに僕の指先は熱を持っている。

 もう少しだけ生きてみようと思った。

 単純なやつだと笑われるかもしれないけれど、もうすこしだけ生きてみようと思えた。

 そして必死にもがいて生き抜いて、いつか誰かを幸せにするヒカリになりたいと強く想った。



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