【薔薇要素注意】イイフーフの日
コレはR15なのかR18なのか……。
どちらなのでしょう……?
ソレは、大学のカフェテラスで友人たちと話している時に聞いた話がきっかけだった。
「良い夫婦の日?」
「そー。11月22日は語呂合わせで1122の日、なんだってよ。」
「へぇ。」
「さっき彼女に報告された。」
「お前の彼女、そういうイベント好きだよなぁ。」
「そうなんだよ、可愛いだろ?」
「惚気やべぇ。うぜぇ。」
「なんだよ、羨ましいからって僻むなよ。な、克也。」
振られた話に、咥えていたストローから口を離す。
「そうだな。僻んだって彼女はできないぞ。」
「そーそー!僻むなって!」
「カーッ!これだからモテる男は!!良いか、克也!誰もがお前みたいにモテモテなわけじゃねーんだ!せめて、お前が彼女作ってくれれば、お前に流れる女子のおこぼれをもらうことができるのに!」
嘆かわしい!と鳴き真似をする友人に苦笑する。
「克也、全然なびかねぇよな。この前も、美人だって言われてる後輩に声かけられてたのに。」
「美人…………?」
はて、そんな子居たかな。
記憶をたどるも思い出せない。
「うわ…コイツ、マジかよ。」
「ありえねぇ、滅べば良いのに。バルス。」
「そう言われても困る。」
苦笑すれば、友人たちがため息をつく。
「あぁでも克也の幼馴染、超キレイな顔してたっけ。」
「あ、見たことある!この間、一緒に食堂来てたよな?同じ学校のヤツ……じゃねぇよな?」
「あはは、違うよ。家でご飯作るの面倒だなって話になったから、学食に連れてきただけ。アイツ、大学行かずに働いてるから、キャンパスライフに興味もあるみたいだったし。」
そう言ってれば、携帯が震えて。
確認すれば、幼馴染からの仕事終わったの連絡で。
「俺、そろそろ帰るよ。」
「なんだよ、彼女か?」
「残念ながら彼女じゃないよ。だから、そんな睨まないでくれ。」
「と、俺も彼女から連絡だぁ!帰らなきゃ。」
「お前はわざとだろ!良いけどな!!俺だって居るし!可愛い彼女!」
「イマジナリーフレンドだろ?」
「イマジナリーフレンドとか言うな!ちょっと視認できないだけで、いるから!生きてる次元違うだけだから!ちょっとこの辺にいるから!」
「もうソレ、スタンド使いだろ。」
「スタンドじゃねー!彼女!!」
「はいはい。」
いつも通りの馬鹿げた会話。
空っぽになったカップをゴミ箱に捨てる。
「そういや克也って彼女いねーよな。彼女欲しいとか思わねぇの?」
「ん〜、思わないかな。」
「マジか。」
「勿体ね〜!合コン行ってもほぼ一人勝ち状態なくせして!貪欲になろうぜ、克也!」
「そーそー!付き合ったことねーわけじゃないだろ?俺、お前の元カノだってヤツバイト先に居るし。」
「そうなんだ。どの子?」
「どの子か聞くくらい付き合ってんのかよ……。羨ましい、爆ぜろ。」
「今は誰とも付き合ってないよ。んじゃあ、俺こっちだから。」
「どっか行くのか?」
「スーパー。夕飯の買い出ししないと。」
「「主夫だ。」」
「食事は当番制なんだよ。じゃーな。」
中学卒業と同時に地方に引っ越した俺は、大学進学を期に戻ってきた。
たかが高校三年間、されど高校三年間。
久しぶりに再会した幼馴染は、昔より大人になって、精悍な顔立ちになっていた。
「たかが三年で、随分様変わりしたよなぁ、ホント。」
こっちに戻ってきて、見知らぬ土地になって不安になってた俺に“なら近所に住むか?”と声をかけてくれた幼馴染。
そんな幼馴染に“家探すの面倒だからシェアハウスして”とワガママ言った俺。
あれからもう、二年たった。
男二人、一緒に住み始めて二年だぞ二年。
「今日の飯は何にすっかなぁ。」
俺に彼女居ねぇの?と聞いてきた幼馴染に、今はフリーだと答えてから続いてる同棲生活。
俺が女の子よりも男の子が好きと打ち明けてからも変わらずに接してくれる。
いろんな女の子と付き合って来たけど、やっぱり俺は昔から初恋以上の相手に出会えた試しがない。
自覚はなかったけど、多分昔からそうなんだ。
世の中ジェンダーレスだなんだと言いつつも、同性愛者に対する風当たりは強いままだし、環境も改善されてるとは思えない。
少しずつ良くはなってるんだろうけど、それでもやっぱり生きづらさを覚える時がある。
「アレ、カッちゃん?」
「あ?リョー!おかえり、今帰りか?」
「おー、ついでにスーパーで買い物でもって思ったけど……カッちゃんも同じこと考えてたんだな。」
「今日の当番は俺だからな。」
「あ、そっか。えー、それならまっすぐ帰れば良かった。」
そう言いながら買い物カゴを手にとってカートを押し始める綾太。
俺の幼馴染であり、同居人であり、俺の初恋だ。
「カッちゃん、食いたいものは?」
「俺は特にねぇな……リョーは?」
「俺は肉。」
「アバウトだな。」
綾太は筋肉質の割には細身で、キレイな顔立ちをしている。
そのせいか、俺みたいなゴリゴリの筋肉質が隣に立つと華奢に見える。
「鶏肉が安いな。」
「んじゃあ唐揚げするか?」
「異議なし。」
細く見えがちだけど、俺よりよく食うしよく寝るし、腹筋だって割れてる。
ただ、ゴツく筋肉がつかないってだけだ。
「なぁ、リョー。」
「ん?」
「キスして良い?」
「スーパーで何言ってんだ?」
いきなりどうした、と本気で不思議そうにするから少し悩んで。
「いや、今不意にリョーに告白した日を思い出して。」
「告白?」
「俺の好きなタイプについて。」
「あ?あぁ、アレか。」
俺が勢い余って綾太が好きだと言った時、綾太はそうなのかと言った。
それから真面目な顔して“俺、女としか付き合ったことねーから自分が男もイケるのかわかんねぇ”と悩んでくれた。
『気持ち悪いとか思わねぇの?』
『あ?思わねぇよ。恋愛対象なんて人それぞれだろ。幼女好きとか言わねぇ限り俺は受け入れるよ。打ち明けてくれてありがとうな、カッちゃん。』
『俺、このまま一緒に暮らしてて良いの?』
『好きにしろよ。』
『リョー……。』
『ん〜…………よし、わかった。一回キスしてみっか。』
『は?』
驚く俺に触れるだけの口づけをしてくれた綾太。
『ん、キスは平気だな。』
『…………なぁ、リョー。』
『なんだ?』
『キスがイケルなら、エッチもイケルんじゃね?』
『は?』
『俺、挿れたい。』
『は!?俺だって挿れる側が良い!身体、開拓されたくねぇ!』
『俺だってヤダよ!俺が挿れたい!!』
『譲れよ、そこは!!』
『いや、ぶっちゃけ俺、お前ならどっちでもイケル気がするからヤるならどっちでも……。形勢逆転はありだよな?』
『なしだ馬鹿野郎。』
なんて、本気で俺と向き合おうとしてくれた綾太。
有耶無耶にはなったし、まだ付き合ってるわけじゃねぇけど……、変わらず俺の傍にいてくれる。
俺にとっちゃ、ソレだけでも充分幸せなことなんだ。
「アレ、坂本くん?」
「?」
「久しぶりだね、仕事帰り?」
「柳か。」
綾太に話しかけてきた女が一人。
俺の知らないヤツだから高校の時の知り合いかな。
「そっちは、坂本くんの知り合い?」
「あぁ、幼馴染だ。」
「そうなんだ。一緒に買い物してるなんて、仲良しだね。」
「まぁな。柳は一人なのか?」
「うん。仕事で疲れちゃったからお惣菜買って帰ろうと思って。坂本くんは……自炊?偉いね……私には無理。」
「良いんじゃねーの?たまには手ぇ抜いて自分のこと労ってやんねーと、しんどいだけだぞ?」
ほら、綾太のその一言だけで嬉しそうに笑う。
照れくさそうに笑ってありがとうと言う。
その仕草が、恋する乙女ってヤツで。
「おい、リョー。俺腹減ったんだけど。」
醜い嫉妬心を隠せなくて。
優しい綾太をワガママで促す。
「悪い。んじゃあな、柳。気をつけて帰れよ。」
どう頑張ったって、男女の差はあって。
俺がどれだけ綾太を好きでも綾太が好きとは限らない。
別にそれでも良いとは思ってる。
俺と向き合ってくれただけでも充分幸せだとも思ってる。
でも、
だけど。
「なぁ、リョー。」
「ん?」
「ごめんな、友達との会話邪魔して。」
俺のこの何十年と積み上げられた想いは、簡単に諦められるほどキレイでも穏やかでもなくて。
「あぁ、気にするな。カッちゃんは悪くねーよ。一緒に居るヤツ放って話してた俺が悪いし。今度時間ある時は、紹介させてな。」
「元カノですって?」
「チゲーよ。」
「え、じゃあ、今カレです?」
「ちゃっかり恋人ポジションになってんな。」
「俺はいつでも大歓迎。」
「ヤル気満々か。」
「え、ヤらしてくれんの?ちょっと待ってゴムあったかな。」
「カッちゃん、ココスーパーだから落ち着け。そういう話は家と仲間内だけにしよーな。」
「はい、ごめんなさい。」
「たく……。」
顔を見合わせてどちらからともなく笑う。
カゴの中に入れられる唐揚げ粉。
「リョー、今日は危険日だったか?」
「ん?財布事情の話だよな?俺の身体について聞いてるんじゃないよな?」
「両方。」
「両方かぁ、そっか〜。財布の方は心配すんな、俺今日給料日だったから、多少買いすぎてもどうにでもなる。あと、俺はカッちゃんと同じ男だから危険日はねー。精神も安定してる。」
「安定してんのか、なら安心だな。」
「何がだ?ん?」
軽く引っ張られる頬。
それでも綾太が本気で怒ってないのはわかってるから。
「綾太。」
「なんだよ。」
「今日はイイフーフの日、らしいんだ。」
「あぁ、11月22日だもんな。ソレがどうした?」
「記念日にするなら、今日だと思わねぇ?」
「まぁ、今日を記念日にするヤツらは多いだろうな。」
「なぁ綾太。」
「ん?」
「今日を記念日にしよーぜ。」
「良いけど……何の記念日だよ。」
「身体を改造された日。」
そう言えば、パチパチと目を瞬いて。
笑い飛ばすこともせず、考えるように顎を撫でて。
「せめて、段階踏んでくれ。」
「ほう、例えば?」
「フレンチキス……は、一回したからディープキスだな、次は。」
「んじゃあその後は身体開発だな、わかった任せろ。俺、綾太相手なら開発できると思う。」
「頼もしい限りで……じゃなくて。俺まだ身体開発される覚悟できてねーんだけど。」
「んじぁ、先に俺の身体開発するか?」
「さも決定事項みたいに言ってるけど、今日の話じゃねーよな?」
「当たり前だ。俺達の年間計画表だから。俺はリョーのこと好きだけど、無理強いしたいわけじゃないからな。」
胸を張って答える俺に困ったように頭をかき混ぜて。
「あー、とりあえず。克也。」
「ん?」
「手ぇつないで帰った日、でどうだ?」
「え〜?何回かしただろ?昔よくしてたし。」
「状況が違うだろ、状況が。」
「…………。」
「ほら、買い物さっさと済ませようぜ。」
そう言って笑うと、主婦顔負けの視線で食品を見つめた。
「…………。」
好きだなって思う。
愛してるって叫びたい。
だけど、綾太の嫌がることはしたくないから。
だから。
「リョー。」
「ん?」
「俺、リョーのそういうとこ好きだぞ。」
「俺も、カッちゃんのそういうとこ好き。」
今は、このぬるま湯みたいな関係で満足かな。
今はまだ…………な。
読んでいただき、ありがとうございます
感(ー人ー)謝