1/1
記憶
あたしは一人っ子だ。
だから、周りの子たちより、ちょっといい暮らしをしていたと思う。
お父さんは有名株式会社の社長。
お母さんは主婦。
両親にとって、たった一人の大切な子供。
それがあたし。
『大切』だったあたしは、ちょっとだけ贅沢な暮らしをしていたんだ。
でも―――
お父さんの会社は、あたしが小2の時に倒産した。
職を失ったお父さんは、なんとか職に就いた。
お母さんも働きだした。
大きい家に、あたしは一人ぼっち…。
そんなことが毎日続いた。
ともだちがいなくても、あたしは学童にほぼ最後までいるようになった。
大きな家に一人ぼっちでは、何となく怖くて…
寂しくて…
悲しかった…。
夜遅くになっても、両親は迎えに来ない。
夜道を一人で帰ったこともあった。
やっぱり、家にはだれもいなくて…
毎日泣いたっけ…。
そんなとき…
「明日夏ちゃん、お迎えが来ましたよ。」
先生のこの言葉。
あたしは救われたような気がした。
かばんをつかんで、泣きながらドアへ走る。
「おかあさ…
違った…
お母さんじゃない…
でも、そこに立っていた男の子を見たとき…
あたしはその子に抱きついた。
「みずきくん…ッ!」