面接②
1階の廊下にさっそく清掃員がいた。
1階の清掃員は、太ったおじさんだった。
チョビヒゲが生えている。
お疲れ様です、と少し頭を下げながら通過する。1階のおじさんは、モップ掃除を止め、帽子を被り直しながら、こちらが通過するのを一瞥している。
「おう、頑張れよ!」
と言ってきた。
なぜ、僕らを応援するのだ。もしかして、僕らが面接を受けに行くと知っているのか。
もしかして、社長なのか。
だったらもっと大きな声で挨拶すべきだった。
後悔したが、もう遅い。通過後もこちらをじっと見つめているような、妙な視線が背中に刺さった。
2階の清掃員は、おじいちゃんだった。
かなりのおじいちゃんだ。
こんなおじいちゃんに会社の社長が務まるのか、いや、おそらくご老体には無理だろう。
このおじいちゃんは違う。
すれ違う瞬間、おじいちゃんが雑巾を落とした。
僕の前を歩いていた茶髪男は、雑巾を避けて通った。
僕は、反射的に拾って渡してあげた。
おじいちゃんは、そっけなく、
「おう、ありがとよ。」
とだけ言った。思ったより反応が薄かった。
茶髪男は、おじいちゃんは社長では無いと判断し、雑巾を避けたのであろう。
僕は、雑巾が塗れたり異臭を放っていなかったことにほっとした。
3階の清掃員は、おばあちゃんだ。
おばあちゃんだが、清掃員にしては不自然な程に厚化粧をしている。
それに、品がある気がする。もしかしたら、上流階級の暮らしをしている人なのかも。
今までと同じように通過する。
通過の直前、壁に立てかけていたモップが倒れた。茶髪男は、素早くそれを直した。
「まあ、ごめんなさいね、ありがとう。」
とおばあちゃんは大げさに有難がった。
「いやあ、たいしたこと無いっすよー。」
茶髪男はニヤニヤしてこちらを振り向いた。勝ち誇ったような顔をしている。
僕の目の前で倒れれば、僕が直したのに。
そして、廊下の突き当りにある部屋に案内され、三人とも椅子に座った。
そしてすぐに、茶髪男の名前が呼ばれた。
一人ずつ面接を受けるのか。
僕の名前はまだ呼ばれない。
僕は、誰が社長だったのか、ひとり黙って考え込んだ。
1階の太ったチョビヒゲおじさんか。
2階のよぼよぼのおじいちゃんか。
3階のセレブ風おばあちゃんか。
続きます。