渦巻く闇の世界では
一般的には霊や妖怪と呼ばれる存在なのかもしれない。
その女はまるで心の隙間を縫うようにこちらの欲しいものを提示してくる。
初めて会った時は、どこからともなく現れ、そして耳元で囁いてくる。
「今のあなたは満ち足りていないわね」
女は指先で撫でるように首筋から顎へと指を這わせてきた。
蛇のように這う指先と、それに伴って動けなくなる身体。
蛇の毒にあてられたように錯覚する。
甘美な毒。このままずっと当てられたい。充てられたい。
「…もっと欲しいの?」
促されるままに頷くと女は呆れたように言う。
「仕方ないわね。」
差し出された指先がうっすらと光っている。
女の指が発光しているのかと思ったが、そうではなかった。
発光していたのは自分の細胞だった。
まるで細胞が少しずつ溶かされて、粘土のように捏ねられているかのようだ。
少しずつ何かを混ぜ込まれて、ゆっくりとゆっくりと自分じゃない何かに変貌していくのを感じる。
不思議と恐怖心はない。
支配されていくことが心地良かった。
これまでにない充足感が心と身体を満たす頃、自分の身体が生者のソレではなくなっていたがそんなことはどうでもよかった。
「新島、こいつも一緒に仕舞っておいて。」
二度と人には戻れないとしても…。
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「…それで、細山さんはバカ正直に居場所を教えちゃったの?」
報告を受けて、女は呆れたような様子になる。
「特に言うなとは言われていなかったからな。」
無表情のまま細山は屁理屈を言う。
「まったく。戦いの機会が欲しいなんて言うから任せてみたらこれなんだから。」
ヤレヤレとため息をついて見せるものの細山は無反応である。
「…まぁいいけど。それで、あちらさんは何人くらいなの?」
「うろちょろと監視をしている奴らが何人かいたが、骨がありそうなのは2人だな。1人は聞いていた能力者の女だろう。もう1人はその女と一緒にいた谷崎と呼ばれていた男だ。」
ピクッ…
一瞬、女の動きが止まる。
「…谷崎、ね。まぁ珍しくもない名字だけど偶然と言うには出来すぎているわね。」
しばらく考え込んだ後、女は再び口を開いた。
「次は能力使ってでも捕らえなさい。もしかしたら大当たりかもしれないしね。」
女はそう言うと、細山に渡された黒く光る魂を持って闇へと姿を消した。
「(やらねば次はなさそうだな。)」
そっと、流れる汗を拭った。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
区切りの話なので今回は短めです。
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