【魂なき世界16】敢えてはっきり言わない方が強く伝わることもある
気が付いたのは全てが終わった後であった。
目の前にある動かなくなった綺羅々の身体を見て、血の気が引くのを感じる。
認めたくはなかった。綺羅々も自分と同じく気絶させられているだけであって欲しかった。
例えそれが、ありえない展開であったとしても。
「綺羅々様、起きてくれ。綺羅々、おい…」
声をかけても、体を揺さぶっても全く反応がない。
「頼む…目を開けてくれ…頼む…」
必死の願いも、綺羅々には届かない。
「くそっ…」
地面を拳で叩いて悔しがるが、事態が好転するはずもない。
自分自身、最近は新島をはじめとして戦いの多くで良い戦績を出し続けてきた。
内心どこかで戦いを軽く見ていたのかもしれない。
結果として綺羅々の魂を…。
その後、灯里から電話がかかってきて、お互いの状況を報告し合い、合流することとなった。
動かなくなった綺羅々の身体を抱えようとした時に、持ち上げることができなかった。
「(こんなに軽そうな女の子を持ち上げる筋力もないんだな…それなのに…)」
強くなったつもりでいた自分が、凄く滑稽に感じた。
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「すみません、最初から綺羅々と協力して戦っていればまだどうにかなったかもしれないのに。」
頭を下げる颯士に先ほどまでの不機嫌な態度はなく、ただただ焦燥しきている様子だった。
「いや、骨折のこともしらなかったわけだし仕方がない。俺の采配ミスだ。」
すまなかったな、と谷崎は表情一つ変えずに言う。
「颯士のせいじゃないよ、私が骨折のことを早く思い出していたら…」
そう言う灯里は痛めた足を引きずっている。
「…とにかく、敵の戦力が思った以上と言うことがわかった。」
落ち込み合戦を終わらせようと谷崎が口を挟む。
「格闘技のプロがいたり、細山のような手練れもいた。他にも強敵がいると考えるのが自然だろう。」
谷崎は半分、脅すように言う。
「アジトと思しき場所の目星がついたことはついたが…」
「構わないよ。綺羅々をこのままにしておくわけにはいかないし。」
即答で灯里は決意を表明する。
「お、俺も…」
「やめておいた方がいいんじゃないか?」
颯士の言葉に被せて谷崎が言う。
「ちょっと喧嘩が強い、くらいではプロ相手に勝つのは難しいし、まして能力者が相手ならなおさらだ。」
「(与えられた能力者が強いとは限らないみたいなこと言ってたじゃん…)」
そう内心、灯里は思ったが、谷崎の言うことも尤もである。
元々、喧嘩が得意でもなければ力もない、ただの美術部の学生が能力を使うプロの格闘家達と戦う。
ちょっと考えれば、いや、考えなくても無謀と言うことは分かりそうなものだ。
「責任を感じて、と言う動機だけならばかえって邪魔だ。魂を奪われなかっただけでも良しと思って引き下がれ。」
「…っ!!」
悔しくても反論できない颯士を無視するように谷崎は続ける。
「綺羅々の身体は病院に預けておけばとりあえずの生命維持はできるだろう。アジトの見当をつけて実行に移すまで1週間ってところだな。」
谷崎は気付かれない程度にチラリと颯士の方を見て言う。
「1週間後の朝9時、ここを出発する。」
わざとらしく灯里に向き直り谷崎は続けた。
「だからそれまでに足首治しておけよ。」
「分かった。」
察した灯里は、それ以上は何も言わなかった。
「(俺は…)」
颯士は、颯士も何も言わなかった。言えなかった。
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