【魂なき世界15】字面通り受けとるならば約束は守っている
谷崎の拳をモロに食らった細山は、吹っ飛ばされて地面へと転がっていった。
「くっ…」
立ち上がろうとする細山だが、時既に遅く、灯里と谷崎に囲まれていた。
「…ここまでのようだな。」
倒れた体制から2人を相手に挽回することが難しいのは細山自身にもよく分かっていた。
「タイマンじゃなくて悪いんだけどさ、こっちも遊びじゃないんでね。」
まったく悪いとは思っていなさそうに谷崎が言い放つと観念したように細山がうなだれる。
「要望はなんだ?」
「話が早くていいね。何、ちょっと色々と質問に答えて貰うだけさ。」
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細山への尋問には大きな収穫があった。
首謀者と思しきあの女が、いる可能性がある場所をいくつかピックアップして教えて貰えた。
「居場所が分かるほどには、あなたって偉い立場なの?」
灯里が訊ねる。
「あの女が信頼…と言うには違うかもしれないが、実力を買っている側近が複数名いる。その中の一人ではあるな。」
負けを認めてからは随分とあっさり色々吐いてくれる。
「あなたほど強い人が何故あの女に協力を?」
続けて訊ねる。
「強い者と戦う機会を得られるからな。俺の場合はそれだけだ。」
確かに、喧嘩の強さだけが全てと言うわけではないが『強い魂』を持つ人は手ごわい人が多いのも分かる気がする。
「あなたも能力を与えられているんでしょ?能力は使わないの?イメージは苦手?」
一度喋りだすと止まらない、灯里の質問はどんどんと出てくる。
「信念に反する。戦いは素手のみだ。」
「なるほどね…こだわりのバトルマニアってわけか…」
妙に納得した灯里にも、少し理解できるところがあるのかもしれない。
「それじゃあ、最後に。奪った綺羅々の魂を返してくれる?」
「…。」
細山が急に押し黙った。
「いや、早く出せよ。」
横から谷崎も援護するが、細山は口を開こうとしない。
「おい、胸ポケットにあるんだろ?男に手突っ込まれたいか?」
初めて細山が困ったような顔をした。
「…もうない。」
「いや、もうないじゃねーよ。さっきあったろうが。」
「さっきぶっ飛ばされた時に落としたようだ。」
「…マジ?」
ちょっと力を込めすぎた自覚があったのか、谷崎も少し気まずい気分になる。
「とにかく、その辺りに落ちているなら探そうよ。」
灯里が割って入ると、しかたねーな、と言わんばかりに谷崎が後頭部をボリボリと掻きながら周りを探し始める。
「…。」
綺羅々の魂を探している最中、周りに青白い光を帯びたゾンビ達が集まってきたことに灯里と谷崎が気づくまでそう長い時間はかからなかった。
「またこいつら…!」
咄嗟に谷崎に能力で具現化した角材を渡すが、先ほどよりも数が相当に多い。
「ちょっと、さっきよりかなり多くない?」
悪態をつきながらもゾンビの処理をするが、一向に終わりが見えない。
「おいおい、こんな時に…」
谷崎も角材でゾンビをなぎ倒すが、その場から動くことができない。
バッタバッタとなぎ倒す視界の奥で、そのうちの一体が口に黒く光るものを咥えて去っていくところが見える。
「あ、あれ!!」
綺羅々の魂と思しきものを持ったまま、ゾンビの一人が去っていく。
「くそっ、一気にぶっ飛ばせ!」
谷崎の怒号が響き渡る。
「分かってるわよっ!!もうっ!!!」
灯里が白龍を放ち、周りのゾンビ達を一気に消滅させる。
もはや魂を温存している場合ではない。
グッ…
手のひらを逃げ行くゾンビに向けると
「まてまて、あいつはマズい!綺羅々の魂まで消しちまうぞ!」
谷崎の焦った声で我に返る。
「えぇい、じゃあ直接追いかける!スピード全開!!」
走りだそうとした灯里の足首に鈍痛が走る。
細山の手が灯里の足首の関節を外していた。
「このっ…!」
倒れそうになりながら、咄嗟に細山に白鷺撃を放つが細山は後ろに飛んで躱す。
「質問には答えた。これまでだな。」
身軽に躱しながら、ビルの屋上へと三角飛びで登っていく。
足を負傷した灯里や無能力者の谷崎には追いかける術はなかった。
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