【魂なき世界13】言われて嫌なことを言いまくる人には単にイヤな奴と自覚がないだけのやつがいるがどっちも関わりたくはない
谷崎と細山の激しい攻防は、しかしその激しさとは対照的にお互い致命的な一撃が決まらずにいた。
このまま長引くと体力が先に尽きた方が負ける、と言ったところだろうか。
能力を使って割り込むこともできるかもしれないが、谷崎に当たる可能性もある。
先ほどまでは何もしない谷崎を忌々しく思ったものだが、今は何もできないことが歯がゆい。
いや、颯士や綺羅々がやられたような相手だ。
できる限りの準備をしておかねば。
「そんなむっつり顔されてちゃ表情も読みづらいねぇ」
谷崎が激しい攻防の中、細山に軽口を叩く。
少しでも油断させようとしてのことだと思うが、細山は無反応である。
「聞こえないのか~?見にくそうな細目だけじゃなくて耳も聞こえないのか~?」
小バカにするように谷崎が続けるが細山はこれまでと変わらぬように腕を鞭のようにしならせた攻撃を繰り返す。
直線的な攻撃に比べて細山の攻撃は読みづらいはず。
客観的に見ていても予想外の動きの連続だ。
もし自分だったら避けていられただろうか。
そして、自分ならどう戦うか…。
そうこうするうちに、ついに戦況に変化が現れた。
「…お前もあの女に能力貰って飼われているクチか?」
急に真剣な顔で谷崎が言う。
ピクリ…
極めてわずかな反応だが、ほんの少し細山の眉が上がったのを谷崎は見逃さなかった。
これまでとどう違うのか外野が見ても分からないが、攻防を続けていた谷崎だけが変化に気付けた。
「(ほんの少しだけ…)」
襲い掛かってくる腕がほんのわずかに直線気味に襲ってくる。
「…見えたぜ」
谷襲い掛かってくる細山の右手首を、がっしりと左手で掴む。
蛇のように自由自在に動いて見えるのは、手首、肘、肩の関節部の動きと独特のリズムによるものであることを谷崎は見抜いていた。
そのまま掴んだ手首ごと引っ張り上げると、細山の体はいとも簡単に浮かび上がった。
「これで逃げられないだろ。」
渾身の力を込めた谷崎の右拳が細山の左胸に炸裂した。
完全に捉えたと思ったその瞬間、谷崎の表情が驚愕に染まった。
「運が悪かったな…」
宙に浮いた細山の足先が谷崎の顎にピンポイントにヒットした。
大きく吹っ飛ばされた谷崎は、ビルの壁に体を叩きつけられた。
「…ちっ。」
壁に叩きつけられたダメージで苦しそうな顔で谷崎が起き上がる。
「そこに仕込んでいたのか…。」
「偶然だ。」
谷崎が胸ポケットから黒く光る玉を取り出す。
黒…綺羅々の能力で出来る物質は黒だ。
と言うことは…
「綺羅々の魂か…」
谷崎の攻撃の威力は綺羅々の魂によって殺されてしまったようだ。
魂を能力なしで破壊することは出来ない。
いや、もし私が能力で攻撃していてうっかり破壊などしてしまっていたら綺羅々が死んでしまうところだった。
破壊できなかったのは不幸中の幸いではある。
だが、谷崎が勝つためのチャンスを逃してしまった。
コンディションを見ると逆に谷崎が不利にすらなったとも言える。
勝てる確信は全くなく、ちょっとした恐怖すら感じていた。
…感じていたのだが、気が付いたら体が動いていた。
「それは綺羅々のだ!!」
能力によるブーストで灯里のスピードが格段に上がる。
細山の手にある綺羅々の魂を取ろうと手を伸ばしていた。
細山は咄嗟に背後に飛びながら胸ポケットに魂をしまうと鞭のような腕で灯里に襲い掛かった。
だがこれまでの攻防を見ていたお陰か、大きくしゃがみ込んで腕を避けることはできた。
しゃがんだ状態から、今度は立ち上がる勢いでそのまま飛び膝蹴りへと移行する。
右腕を空振りした体制で細山にできることは、膝蹴りを左手で何とかガードすることだけであった。
倒れこそしないものの、細山の上半身がグラつく。
なんとか一撃当てることができた。
次の攻撃は…どうしよう。
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