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多くの人が必殺技を持たないのは日常的に必殺技を使う機会がないから

必殺技と言っても実際に殺すわけにはいかない。

そもそも戦う必要にすら迫られていないのだから必殺技の開発なんてしなくても良いのだけれども、クリエイティブな能力を研究する動機が欲しかった。そんな中、灯里の提案はありがたかったしワクワクしたものだ。

灯里の疲れた姿を見て心配していたのも確かだが、「疲れにくい工夫」を考えることに楽しみも見いだしていた。


1.作り出した物質を回収できること

2.作り出す物質の質量を抑えること


この2つが灯里の負担を減らす鍵となるだろう。

先日編み出した必殺技は、威力は申し分ないが水のような性質から回収が難しい。また、細かい飛沫になると霧散してしまう。

放出した後も形を残すことが重要だ。

加えて、重さをイメージしやすい形がよい。

シンプルな鉄の塊が伸びていくのも良いかも、と提案するも、ダサいから却下と言われた。

かっこよくて質量のあるもの…

スケッチブックにいくつか候補の絵を描いてみる。実際描いてみるとイメージもわきやすい。


「あ、コレならいいかも!カッコいい!」


横からスケッチブックを見ていた灯里が口を出してきた。

月並みの発想で描いたものだが確かに格好の良さもある。


「では早速…」


灯里はグッと腰を落とし構える。

両手を前に突きだし気合いを込める。


「白龍撃!!」


灯里の両手から白い龍が激流のように放出された。

なんてイージーなネーミングセンス、と思ったことはそっと胸の内にしまいながらも、描いてあった通りの龍がそのまま出現したイメージ力は大したものである。


が、このままでは白龍が教室の壁を破壊してしまう。ヤバい!

そう思った瞬間、灯里の手が龍の尾を掴んだ。そのまま白龍を吸収する。


「よしっ!」


思わずガッツポーズをする灯里を見て、なんてバトルセンス、世が世なら有能な戦士として名を馳せていたことであろう、としみじみ思うのであった。



それから数日間、放課後は河原で必殺技や能力の効率的な使い方の練習をする日が続いた。


颯士が考えたいくつかのアイデアを試行錯誤し、実用的なものは使いこなせるように反復練習する、というものである。


初めは操作も難しかった、足からエネルギーを放出することで動きにブーストをかけるアイデアも形になってきている。

うーん、目的もなく修行をしていたが思いのほか極まってしまった。

ちょっとしたスポーツの大会くらいなら総ナメにできそうだ。


ひとしきりの練習を終えて、すっかり日常となった二人での下校中に事件は起きた。


他愛ない会話をしながら歩いていると、言い争いをしている男女が目に入った。

チンピラ風の男が罵っているのに対して、少しやつれたような女がヒステリックにわめき返している。


痴情のもつれかな…?

多少の気まずさを感じながらも横切ってから、そう間もおかずに破裂音にも似た音が響いた。


バチンッ!!


驚いて振り向くとヘタレこむ女と、追撃するかのように蹴りつける男の姿が目に写った。

平凡な高校生ならば関わらずにそそくさと去ってしまうだろうし、それが賢いと言える。

しかし、元来の曲がったことが許せない性格と、能力があることで気が大きくなっていたのか、つい口が出てしまったようだ。


「アンタ!何やってんのよ!」


そう言って灯里が飛び出した。

そういえば小学生の時はこうやってガキ大将にも立ち向かって行ってたっけ、と昔を思い返してみたりするが、そんなことより止めないと。


「なんや、ねーちゃんには関係ないやろ!」


凄むチンピラ風の男に怯みもせず灯里も言い返す。


「関係ないなら目に写る場所でDVするな!」


目に見えない場所でもDVは駄目だけどね、と内心突っ込みつつも、なんとか穏便に穏便に…

そう思っているうちにチンピラが手を振りかぶった。

思わず顔を背けそうになったが、チンピラの手が灯里にぶつかることはなかった。

代わりに灯里のハイキックが綺麗にチンピラの頬を捉えていた。

気づかれないほど僅かに足からエネルギーを放出し加速した蹴りは、チンピラを悶絶させるには十分な威力だったようだ。


「いったぁ~!!」


しかし、ダメージを得たのはチンピラだけではなかったらしい。

ブーストのかかった蹴りで想定外に勢いがついた股関節が、無理な動きに耐えられなかったらしい。


股間を抑える灯里の姿は、ちょっと、

カッコ悪かった…


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