【魂なき世界10】アバラ一本持ってかれちまった、とかよく言うけど実際どのくらい痛いんだろう
~颯士&綺羅々チーム~
灯里から電話がかかってきて、それを取った颯士は綺羅々のアバラ骨が折れていることを知り困惑していた。
「とりあえず病院に連れて行っておくから。」
不機嫌な態度を取っている場合ではないので、色々と腑に落ちないことなどは一旦ぐっと飲み込んだ。
「綺羅々様、アバラ折れてるの…?」
電話を切って綺羅々に訊ねると、大したことはなさそうに
「あれ?言ってなかったかにゃ?」
と、とぼけた顔で返してくる。
「吉村は聞いていたみたいだけど、俺は初耳かも。」
「まぁ、問題はないにゃ」
「いやいや、問題アリでしょ。肺とかに刺さったらどうすんの?」
「多分、肺に刺さっても痛くはないにゃ」
「いや、痛くなくてもさ、死にそうじゃん。早く病院いかないと。」
「う~ん、めんどくさいにゃぁ~。」
なんて、ゆる~く話しているところで、会話へ横やりが入った。
「…そろそろいいか?」
目の前にいる、Yシャツにネクタイ、細身で細目の細男が訊ねてくる。
灯里から電話がかかってくるほんの数分前、颯士と綺羅々があえて路地裏に入ったところで姿を現した、有り体に言うと魂を奪って回っている連中の1人である。
律儀にも電話が出たら取るのを待ってくれ、会話もキリが良くなるまで待ってくれていたあたり、案外良い奴なのかもしれない。(定番)
「まぁまぁ、そう焦らずに。戦う前に名乗るのが礼儀だと思いますよ。」
機嫌が悪いせいかなんだか性格の悪そうな言い回しを颯士がすると、
「そうにゃそうにゃ、名乗れにゃ!」
と綺羅々も調子に乗って便乗する。
男は意にも介さず
「…細山だ。」
と簡潔に名乗ると、瞬間、綺羅々が噴き出した。
「細くて細目で細山だってにゃ!そのまますぎてヘソで茶を沸かすにゃ!ニャハハハハ!」
細山は眉ひとつ動かさずに聞いていた。
挑発には乗らない冷静なタイプなのか。
「(苦手なタイプだな…)」
思った以上に苦戦する予感がして、颯士はイライラする余裕が少しなくなってきた。
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~灯里&谷崎チーム~
「ねぇ?もしかしてこの街が集中狙いされているとかない?」
まるで野犬のように飛び掛かってくる全身青白いゾンビ集団を叩き落としながら灯里が言う。
「うーん、強い魂に引かれて集まってきているのだとは思うがここだけ特別と言うわけではないと思うぞ。」
ビールケースに座りながら呑気に眺めている谷崎に、灯里は少しイライラしてきた。
「ちょっと、谷崎の方にも襲い掛かりなさいよ!」
ゾンビ軍団は一瞬停止して
「ごぇ?」
と、声にもならない声を出した後、再び灯里へと飛び掛かり始めた。
「そいつら、ただただ強い魂の持ち主に自動で襲い掛かっているようだな。」
「呑気に言ってないであんたも戦ってよ!」
狭い路地のおかげで一気に襲い掛かってこれる数には限りがあるが、それでもキリがない。
「悪いな、ゾンビタイプは全身が能力でしかダメージを与えられないから俺は役立たずだわ。」
そう言いながら胸ポケットからタバコを取り出して火をつけ始める。
「もぉ~!!ちょっとは申し訳なさそうにしろ!!」
能力でコーティングした脚で蹴ったゾンビを谷崎の方へ吹っ飛ばす。
「よっ、と」
谷崎が上体だけ動かしてそれを避けるのを見て、灯里は
「くそ~、当たらなかったか。」
と悔しがる始末であった。
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~颯士&綺羅々チーム~
「仕方ないから綺羅々様は下がっていて。」
颯士はアバラが折れている綺羅々を庇うように前に出た。
「非力の颯士がなんとかできるんかにゃぁ?」
疑問符を浮かべる綺羅々に、失礼な、と言いながら戦いの体制を整える。
「…準備は良いようだな」
そう言うと細山は構えもせずにこちらに詰め寄ってくる。
不気味なほどに自然体。
足音ひとつ立てずに近づいてくる様にはまるで力みが感じられない。
「(大丈夫、よっぽどのことがない限り避けられないスピードではないはず)」
いつものように、避けて倒す。当たり前のようにこの動作を行うだけだ。
そう頭の中で反芻していた時に、細山が口を開いた。
「…見逃すぞ」
しゅるっ…
細山の右腕が蛇のようにうねりながら颯士の頬を掠めた。
「(速…くはない!?)」
独特の緩急のつけ方が颯士の予測を裏切った。
速い動きに慣れている颯士にとって、通り抜けたと思った腕がまだ残っている、なんて状態は初めての経験だった。
伸びきった腕を掴むか、前傾姿勢になった頭を地面に落とすか…
颯士の得意のパターンはその2つだったが、細山の腕はそのどちらもさせなかった。
咄嗟に腕を掴もうとするが、頬を掠めて颯士の後頭部まで伸びた手首がぐるんっと曲がり颯士の首筋に草刈り鎌のように強打を浴びせる。
「カッ…ハッ…」
颯士の目から光が失われ、そのまま昏倒する。
「一撃でやられちゃったにゃ…」
珍しく綺羅々の額に冷や汗が流れた。
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