【魂なき世界8】小さなことを許すことができないとストレスの連鎖は大きくなることもある
『その女は何を目的に魂を集めているのか』
この問いに対して、鳥羽剛の答えは、『分からない』であった。
「どうなるかも分からないことに協力していたのですか?人が死ぬかもしれないのに?」
今日の颯士はグイグイ攻める。無責任な剛の答えに少しカチンときたようだ。
颯士の言うことはもっともだ、しかし剛のこれまでの事情を考えると責める気になれない灯里もいた。
「まぁまぁ、颯士、鳥羽さんも両腕を失って悩んでいたんだよ。あの女に新しい腕と引き換えに魂を集めさせられていた、ってところですよね、鳥羽さん?」
灯里は颯士を諫めつつ、剛の方に顔を向けると
「あ、あぁ…すまない…」
灯里が庇ってくれたのを感じたのか申し訳なさそうに答えた。
「謝って済む問題でもないですけどね。」
颯士の言葉にトゲが見え隠れする。
「颯士、責めても解決するわけではないんだしさ!」
灯里が気を遣って言うが、颯士の苛立ちは止まらない。
「吉村も何故そんな奴を庇うんだ?有名人だからか?椿さんがどんな目に遭ったのか忘れたのか?」
矛先が灯里に向かう。
「いや、忘れたわけじゃ…ないけど…」
灯里の顔が暗くなる。
ムードメーカーである灯里の、どことなく能天気な空気が場を保っていたところがあったが、こうなると場の空気が極端に重くなる。
しばし沈黙が流れた後に、重い空気を何とかしようと谷崎が口を開いた。
「まぁ颯士クン、気持ちは分かるが落ち着こう。こいつが悪い奴なのは確かだが、情報は有効利用させてもらおうじゃないか。」
颯士からしたら、谷崎だって元々は絡んできた敵だったことに変わりはない。
勝手にいつの間にか灯里と仲良くなっていてリーダー面されるのにも良い気はしていなかった。
だが、こう正論をぶつけられては反論のしようもない。
「…分かりました。すみません。」
そこからはどんな話をしていたのか、颯士は頭の中で処理できずにいた。
音は耳に入っていたのだが…。
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剛から引き出した中には、そんなに多くはないが新しい情報も入ってはきた。
『あの女』がどうやら人を使って大規模に魂を集め始めているということ。
集められた人は大きく分けて3種類いるようだ。
①剛のように手足を失い、代わりを得るために魂を集める手伝いをするもの
②新島のように能力欲しさに協力するもの
③生きているかも分からないゾンビのようなもの
いつもならばこの手の情報は颯士がメモをしているのだが、虫の居所が悪いのか静観を決め込んでいるようなので、灯里が代わりにメモを取っていた。
「①は多分、『近藤』と同じパターンよね。あの女は『近藤』にとどめを刺した時にエネルギーを回収していたから、その気になれば与えた手足はすぐに消すこともできるわけか…」
灯里がメモを見ながら1人呟くと、綺羅々が横からメモを見て続ける。
「谷崎の話だと②のヤツらは哀れなものだにゃ。どうせ能力を得ても綺羅々たちには敵わないだろうにゃ。」
ちょっと見下したような言い方をしてくる綺羅々を困ったように笑いながら「まぁまぁ」と諫め、灯里は続ける。
「③は直接は見たことないけれど、これまた『あの女』の力だよね、多分。椿ちゃんが言ってた『お母さんが斬った』ってやつ。その話から椿ちゃんのお母さんは能力を使っていたんじゃないかって颯士は思ったんだよね?」
颯士に意見を投げかける。
「あぁ、うん。」
「(いかにも機嫌悪そうだにゃ。今日はあまり話しかけないでおくにゃ)」
なんて綺羅々が考えている横で、簡単に相槌を済ます颯士に困りつつも、灯里は続ける。
「少なくとも、鳥羽さんの腕みたいに『青白く光っている部分』は能力で作ったものでしか破壊することは出来ないから注意ね!」
「なるほどにゃぁ~、了解にゃ!」
ほとんど灯里と綺羅々の2人だけの会話になってきたので、灯里は今度は谷崎に話題を振る。
「じゃあ、今後はどうする?敵勢力と戦うために私たちに声をかけてきたんでしょ?」
少し後ろで壁にもたれかかっていた谷崎が、壁から背を離しながら答えた。
「あぁ、だから今度はこちらから攻めようか。」
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