【魂なき世界7】オタクと言っても漫画やアニメ好きのことだけを指すわけではないのだよ
傍から見たら、今時の女子高生が友達に電話をしている様子にしか見えないだろう。
「もしもし綺羅々?地味に久しぶり~。元気~?」
受話器からはこれまた、若い女の子の声が帰ってくる。
「灯里、お久しぶりにゃ~。いや~あばら骨折られちゃったにゃ~、ハハハ」
「また無茶したんでしょ~、気を付けないとダメだよ~。こないだも足首折れていたんでしょ~?」
「足首折ったのは灯里のせいだけどにゃ~!」
「そうでした、アハハ~!」
そんな今時の若い女子の会話を男2人、颯士と谷崎はげんなりと眺めていた。
「(今時の若い子ってこんな感じなのか?)」
谷崎は内心ドン引きだったが、颯士は
「(本題までが長いんだよなぁ、女子の会話って)」
と、別な理由でげんなりしていた。
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会話が始まってから30分ほど経った頃には、女子2人の間ですっかり関係ない世間話に花が咲いてしまい、颯士が
「吉村、そろそろ本題を…」
と伝えて、ようやく本題へと移った。
「綺羅々、私たちどうやらおかしな奴らに狙われやすいらしいよ」
これまでの長話はなんのその、超簡潔に要件を伝えると、
「あー、こいつのことかにゃ?」
と、テレビ電話ですぐそばに座っている男を映して見せた。
「いや、そんなお友達のことではなく…ん?」
綺羅々が映した男は確かに、おかしなところがある。
青白く光る両腕…
「そ、その人は…」
灯里は驚きのあまり息を飲んだ。
「リングの猛獣、鳥羽剛じゃん!!!マジ!?」
実は灯里は、戦う執事シリーズ以外にも、格闘技オタクな一面もあった。
特定の選手のファン、と言うわけではないが、なんとなく録画していた試合を見たりする日も少なくはない。
必殺のハイキックなど、格闘技の番組の影響を受けている場面も決して少なくはなかった。
「けど、不幸な事故で引退したはずの鳥羽選手が何故綺羅々と?」
妙に事情通な言い回しがオタクくさいなぁ、と綺羅々は思いながらも、
「いや、こいつに襲われたんだにゃ。有名なヤツにゃ?」
「いや、リングの猛獣知らないとか正気!?その豪腕から繰り出されるラッシュの勢いときたらうんぬんかんぬん…」
颯士は思った。
「(あ~、これまた長くなるやつだ…)」
谷崎も思った。
「(それにしてもにゃーにゃー鬱陶しいな、この娘は)」
それから灯里の『リングの猛獣』トークがマシンガン的に炸裂するが、
「埒が明かないからとりあえずそいつのところに行こう」
と谷崎が提案し、テレビ電話に映る谷崎を見た綺羅々が
「そのイケメン、誰にゃ!?」
と大興奮し、早く来い来いと急かすものだからぞろぞろと一同は廃ビル街へと向かうのであった。
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谷崎に大興奮する綺羅々と、剛に大興奮する灯里を眺めながら颯士は
「(ちょっと影薄いなぁ、自分)」
なんて思っていると、谷崎が『いい加減止めてくれ』と言う目線を送ってきたので、不満そうな女性陣を諫めながらなんとか本題に入った。
「え~、それでは司会を務めさせていただきます、神楽坂颯士です。」
パチパチパチ…まばらな拍手には反応せず、そのまま司会を続ける。
「今日の議題は巷を騒がせている『意識不明者が増えている事件』についてです。」
おー。と綺羅々が感情の籠らない歓声を送る。剛はちょっと気まずそうにそっぽを向いている。
「では、いきなりですが、剛さん。」
颯士が剛の方を向くと、バツが悪そうに剛が顔を向ける。
「なんだよ」
ぶすっ、と返すけれどもよもやこのメンツで暴れられても何も怖くないしなぁ、と思いながら颯士は続ける。
「あなたが奪っていたのは魂ですよね?何故そんなことを?」
はぁ…と大きくため息をつきながら剛は答えた。
「…頼まれたんだよ。」
あまり言いたくなさそうなのは無視して颯士はぐいぐい話を進める。
「もしかして、なんていうか、こんな感じの人にですか?」
颯士はメモ帳にサササッと絵を描く。
速筆なのに写実的、綺羅々と谷崎は「おぉ…!」と生絵描きを見て歓声を上げる。
完成した絵を見て、剛は感心するよりも複雑そうな表情を見せる。
「まぁ、その女…だな…」
灯里と颯士は顔を見合わせて、やはり、と目で語っている。
「それで、その女が魂を何に使うかは分かりますか?」
剛の答えに皆が注目する中、谷崎だけが颯士の絵をじっ…と見つめていた。
「(やはり『彩華』か…)」
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