【魂なき世界6】お互い認めあっているところがあるからこそ成長に繋がることもある
大男…『鳥羽剛』は元々、総合格闘技の選手である。
プライベートでの事故で両腕を失ってしまい引退したが、元々は激しいラッシュが売りの強豪選手であった。
現役の頃は熱心なファンも多かったが、引退してからはその後を知るものはほとんどおらず、今となっては『そんな人いたね』と言われる扱いである。
その屈辱と鬱憤、そして腕さえあれば返り咲けるという思いが、剛を凶行へと走らせた。
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鉄球を潜り抜けた綺羅々は、剛へとどめを『刺し』に爪を構えた。
鉄球を外した剛は左腕で直接殴りにかかるが、まるで腕に巻き付くかのように柔軟な動きで、紙一重で拳を躱す。
「(勝ったにゃ…ッ!!!)」
綺羅々が勝利を確信し、飛び掛かった瞬間、避けたはずの腕がフッ…と霧散した。
代わりにもう一本、左腕が現れる。
「ダミーだ」
剛が静かに呟いた。
宙に浮いている綺羅々がこの腕を避けるのは困難だった。
左腕がそのまま綺羅々の脇腹にめり込む。
メキメキメキッ…
骨が砕ける音があたりに響いた。
「終わりだな。」
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谷崎はショックを受ける灯里は意にも介さず話を続ける。
「能力は『強い気持ち』で発言し、『明確にイメージしたものを具現化する』」
灯里が不満そうに不満を垂れる。つまり不満。
「それはもう聞いた。」
「では、『強い気持ちを持った能力者』と、『ただ能力を与えられただけの人』だと、どちらが能力をフルに発揮できる?」
灯里も颯士も合点がいった様子で答える。
「つまり、『能力を与えられようと使いこなせる才能があるとは限らない』ってことか…。」
考え込むように呟く颯士に谷崎がコクリと頷く。
「まぁ、能力者になる条件は『強い気持ち』だけではないから、元々強い気持ちを持っていた一般人に能力を与えたら化ける可能性もあるのだが…」
谷崎は少し難しそうな顔をして続ける。
「逆に言うと、自力で開花した能力者は与えられた能力者に比べてほぼ確実に『才能がある』ってわけだよ。」
「なるほどねー、じゃあ私は可愛いだけじゃないってことか!」
灯里の顔が明るくなるが、男2人は完全に無視を決め込んだ。
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脇腹に拳が突き刺さった綺羅々の口からこぼれたのは、苦悶の声ではなく「ふっ…」と息を吐き出す音であった。
剛はこれまでの試合でも、これほどの手ごたえを感じた時は必ずと言って良いほど相手はダウンしてきた。
そして経験上、ここから立ち上がれる者は今まで一人もいない。
今度は剛が勝利を確信した瞬間であった。
剛の腕から綺羅々がスッと零れ落ちた
…が、先に足先が地面についた瞬間、能力による爪が足先から発動した。
そのまま伸びる爪が地面に突き刺さり、伸びる勢いで綺羅々の体を剛へと叩きつける。
不意打ちの体当たりでよろける剛に、綺羅々が続けて能力を発動する。
「必殺!!アイニャンメイデン!!!」
剛の体を、少女を…ではなく猫を模した拷問器具が挟み込む。
「串刺しになるにゃっ!!」
アイニャンメイデンの中に立つトゲが、剛の体を貫く…。
「…と思ったけど一応、命だけは助けてやったにゃ。」
剛の体でトゲが刺さった個所はなく、綺麗に針が体を避けるような形で挟み込んであった。
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咄嗟に作ったパクリ技だったせいか、アイニャンメイデンは短い時間で霧散し、剛は外へと放り出された。
「どうして殺さなかった…」
いかにも『生かされるのは恥だから殺せ』と言わんばかりである。
「いや、普通に人殺したら捕まるからにゃ?」
綺羅々は呆れて言う。
剛は、殺人じゃなくても立派な傷害罪じゃないか、と思ったが、自分が言えたタチではないので胸の内に秘めておいた。
「それに、うるさい奴もいるしにゃ…。」
と呟いたのは剛には聞こえない程度の大きさの声であった。
「もう1つ、俺の拳は完全に骨まで砕いていたはず。無事なのはどういった能力だ?」
「別に無事じゃないにゃよ。」
綺羅々が脇腹をさすりながら言う。
「痛み、感じないだけなのにゃ。体も。…心も。」
ふぅ、とため息が空に溶けていった。
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