中二病は言うほど中2だけで終わらないと思う
「必殺技ってカッコ良くない?」
灯里のその一言が始まりであった。
日常生活において「必ず殺す技」など使う機会はそうそうないのだが、古来より中高生の中にはそういったものに憧れる層は一定数存在するものである。
その提案に颯士は目を輝かせて同意するばかりであった。
そんなわけで灯里の必殺技開発が始まったのである。
「必殺技といったらやっぱり、何か飛ばすやつがいいよね。ハーッて。」
そう言って灯里は両手を前に突き出すジェスチャーをしてみせる。
非常に分かる。それこそが必殺技の定番!ザ・必殺技である。
光の玉をイメージしてはどうか、と提案してみると灯里は腰に両手を添えて目を閉じる。集中してイメージをしているようだ。
カッと目を見開き、両手を前に突き出す!
「ハーッ!!!」
灯里の手のひらから煙とともに玉がポトッと落ちた。
「…」
…。気まずさが場を凍らせた。あんなに気合いの入った「ハーッ!!!」からのコレである。
少し沈黙が続き、気まずさを誤魔化すように灯里が口を開いた。
「球体じゃなくて、もっとこう、消防車のホースから水が勢い良く出る感じじゃないかな?」
なるほど、確かに「ハーッ!」と出す技は玉ではなく波だ。波とかいて「は」だ。もう一度、波をイメージして出してみよう、とアドバイスすると灯里は再び目を閉じて集中した。大きく息を吸い込み、カッと目を見開くと両手を前に突き出す!
「ハァァァー!!!!」
灯里の両手からぬめぇ~っと横長な物質がどばどばと出てきては地面にべちゃべちゃと落ちた。名付けるならば「とろろ芋波」と言ったところか。
無言でとろろ芋波を回収する灯里を横に、原因を考えてみる。
今まで出してきたものみたいにきっちり硬さがあるものではなく、液状のものが出せたことから意外と生み出される物体の性質は変えられることが分かった。
恐らく一回目は光のエネルギーのイメージがしづらかったのかもしれない。光で敵を倒す方法は現実でお目にかかることはほとんどない。
二回目の「とろろ芋波」は、結構惜しかったようにも感じる。今までに出してきたものは、形は精巧だが実は重さが全然ない。だが、とろろ芋波は
「重さがあったのですぐに地面に落ちてしまった」
のである。初めて能力を発動した日、颯士をぶっ飛ばした拳は重さがなく、ほとんど威力はなかった。だが、発動の勢いで颯士を吹っ飛ばすことはできた。
「人を吹っ飛ばせるような勢い」と「水のような重さ」が両立すると必殺技が成立するのではないか。
それらをアドバイスして再再挑戦!
灯里も少し疲れた様子ではあったが、次こそはと構える。
目を閉じて以下略
「はぁーーーーっ!!!」
灯里の両手からエネルギーの波が放出される。…颯士に向かって。
咄嗟に両手をクロスさせてガードする颯士。足を踏ん張ってみるもそのまま後方へと押しやられる。エネルギーの波で教室の壁に叩きつけられた颯士は、ちょっとばかり手が痺れたぜ、なんて思いつつも技の完成に感嘆の声をあげた。
しかし、それに相反するように灯里は膝をつくほど疲労していた。
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感覚で言うと「魂のエネルギーを消耗した」感じだろうか。
軽くて小さなものを出していた時とは段違いの疲れが身体を襲ってきた。
思えば、出したものを回収していないのもこの疲れの要因かもしれない。
先ほど完成した必殺技はほとんど霧散してしまったが、何とか重い腰をあげて僅かに地面に散らばる欠片を回収すると疲れが軽くなるのを感じる。
心配して駆け寄る颯士に大丈夫であることを伝えるも、今日はもう能力を出すことはできそうにない。ごめん、ちょっと疲れた、と伝えると
「今日はもう帰ってゆっくりしよう」
と颯士は荷物を持ってくれた。
いつもより明るい時間だけど今日は早めに帰ることになった。もうちょっと体力が持てばなぁ、と思いながら。
帰りがけに「能力を使いすぎると疲れること」「疲労は質量に比例すること」を颯士に説明すると、
「今度は燃費も考慮して必殺技を考えよう!無理はしない方向で!」
とのこと。
灯里の家に到着し、颯士から荷物を受け取り
「また、明日」
と軽く手を振り去っていく颯士に手を振り返しつつ、後ろ姿を見送った。
倒れこむようにベッドに入ると、そのまま朝まで泥のように眠っていた。
翌日には疲労はすっかりなくなっていたのはまるでRPGの宿屋のようだ、とシャワーを浴びながらぼんやり考えていた。
颯士には心配かけたかな?早く顔を見せて安心させてやろう、と早々身支度を済ませていつもより少し早めの登校をした。