【魂なき世界1】楽しい1日はきっかり楽しいまま終わりたい
『…依然として意識は戻らないまま』ピッ
朝のニュースをゆっくり見ているほど時間の余裕はなく、リモコンでテレビを切り、灯里は簡単に支度を済ませると、早々に靴を履いて外にでた。
「バイト代結構出たから遊びに行かない?」
なんて気の利いたことを颯士が言ってきた時は雨でも降るんじゃないかと思ったが、生憎と言うかありがたいと言うか、とにかく天気は晴れており、外出にはもってこいの日よりになっていた。
「(街中で待ち合わせなんて、こんなのデートじゃん)」
ワクワクしていないと言うと嘘になる。
この間は隣県まで一緒に行ったりしたが、結局は完全なデートにはならなかった。
今日は、邪魔が入る予定は一切ない。
心が躍るってこんな感じかしら?どことなくいつもより世界が輝いて見える。
待ち合わせ場所に到着して2,3分もすると遅れて颯士も到着してきた。
「ごめんごめん、待たせた?」
「いんや、今きたとこ!」
まるでカップルのような会話に、灯里は口角が上がりそうになるのを必死で抑える。
「さてさて、どこいこうか」
ニヤけちゃうのを誤魔化すように問うと、
「とりあえず、なんたらフラペチーノでも飲もうか。」
とのこと。
びっくり、あの颯士がスマートに行先を決めているなんて。
その後、なんたらフラペチーノを飲みながら
「この後はここいかない?」
と総合遊戯施設のページをスマホで見せてきた。
運動ありゲームエリアありとなかなか面白そうなので
「いくいく、面白そう!」
と二つ返事でOKして遊戯施設に行くことにした。
「久々に勝負しようぜ!」
颯士が勝負を仕掛けてきた。
ビンゴのように9枚並んだボードを野球のピッチングの要領で打ち抜く競技である。
運動音痴の颯士が運動系で勝負を仕掛けてくるとは、と思ったがそういえば颯士はやたらコントロールが良かったのを思い出す。
油断させて勝ちに来るとは卑怯者め、と灯里は思うがこれを機にリベンジをしておこうと勝負を受けた。
「ではでは、先に自信満々の颯士センセーから見本をどうぞ」
おすまし顔で灯里が先行をゆずると
「では見ていたまえ」
調子を合わせて颯士もふふんっ、と笑う。
かくして、颯士のコントロールは実際なかなかのもので、なんと9枚中8枚ものボードを落とすことに成功した。
「くそー、フレームではじくのはナシだろ」
と、パーフェクトを逃したことには不満があったようだが、実際かなりのコントロールであり、灯里も内心
「(野球部入ればいいのに)」
と思った後、
「(入られても困るけど)」
と、自分で訂正をする。
そんなこんなで灯里の番になると、こちらはこちらで本気で勝ちに行く様子。
「(要するにボールを投げるというのは山なりになったりするから狙いにくいわけで、真っ直ぐに大砲のように飛ばせば幾分当たりやすいはず…)」
ある程度、射角をみて、手のひらからボールを能力の爆発で射出する。
「白球撃ってところね。」
ボスンッ。ボールは見事に2枚のボードの間を打ち抜いた。
「2枚抜きかっ!!」
颯士の額に汗が流れる。
そこからボスッボスッと能力を駆使して、灯里の成績はなんと8枚。
「くそー、フレームにはじかれるのは卑怯でしょ!」
「それ、さっき俺が言った。」
お互いの顔を見合わせるとなんだかおかしくて、二人で笑った。
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散々遊び尽くして時間帯は夕方。
これが大人のデートなら、一緒にディナーを楽しんでー、って流れになるところだが、生憎二人は高校生。
楽しい時間も夕方には終わってしまう。
「ふー、久しぶりにガッツリ遊んだわ!」
伸びをしながら満足そうに言う灯里を見て、颯士もどことなく満足そうである。
「今日は楽しかった、誘ってくれてありがとう。」
「こっちも楽しかったよ。」
少し名残惜しいが、明日もまた美術室で会えると言い聞かせて今日はお別れを告げる。
「「それじゃあ、また明日!」」
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街から帰る時はいつもこの路地裏を通る。
街灯が当たらず暗い道だが治安は悪くない方の町だし、なんせここを通るかどうかで5分は時間が変わってくる。
それに、仮に暴漢が襲ってきたとしてもとても負ける気はしないからだ。
そんな慣れ親しんだ道だからこそ、不意を突かれると案外弱いものなのかもしれない。
背中に与えられた衝撃に吹っ飛ばされながら、そんなことを思うのであった。
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