恥ずかしいことを不機嫌そうな態度で隠そうとすると大体隠せない
不機嫌そうな灯里であったが、今日も美術室に来てくれた。
球体、立方体、ダビデ像のミニチュアまで、美術室にあるものをポンポン出して見せた。
驚くべきことに、完全に能力を自由自在に使いこなしていたのだ。
「コツさえ掴めば簡単なモノね」
と、手のひらから猫の像を出しながら
言う灯里は、不機嫌そうながらもどこか得意げだ。
コツは「頭の中でパーツの1つ1つまでしっかり描く」ことらしい。
素直に感心した。乗り気ではないかと思ったがここまで使いこなせるようになっているとは。
灯里が出した像をそのまま手で払い除ける仕草をすると、煙のように像は消えた。
「身体に吸収されるイメージ」で消すこともできるらしい。
颯士の感嘆の声と拍手で少し機嫌を良くしたのか、
「消せるようになる方が苦労したかもね」
と、少し意地悪そうに笑いながら灯里は告げると、手遊びのように手のひらの上で色々なものを出しては消し、を披露した。
「色がつけられるともっと面白いんだけどねぇ」
確かに、これまで出すものはまるで石粉粘土のように白いものばかり。
凄い能力ではあるが、実用性がちょっと思い付きそうにない。
「ちょっと、私は能力を出せる練習したんだから、実用性のアイデアは颯士が出しなさいよね」
作品展に出すのはどうだろう。
彫刻としては凄く精巧だが今のところは模倣ばかりで作品としては難しいか?
そもそもいつ消えるか分からないものを作品にはできないし。
そう考えると家などの建物も一時的なら良いがずっと住んだりすることは難しい。
刃物を作れれば完全犯罪はできそうだが…人殺しはNO!
キャンプに行くときは荷物が減って便利かな?
日常的に使うにはちょっとイマイチかも。
なかなか悩んでもいい案がでないまま、日は沈み始めた。
続きは家で考えよう、と帰路につくことにした。
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少し遅くまで学校に残っていたせいか、すっかり暗くなっており、近くで顔を凝視しないと誰だか分からない。
周りの学生の数も少ない、周りの人にもそう簡単には見られない状態と、能力を使いこなせてきた嬉しさからか、手遊びのように手のひらサイズのものを出しては消しを繰り返していた。
「どのくらい複雑なものまで出せるの?」
と、颯士が他愛ない質問を投げかけてくる。
実物を見ながらならばある程度何でも出せるが、完全に想像だけでモノを作り出すのは難しい、と答えると
「どこまで想像だけで出せるか試してみよう」
とのこと。下校中の暇潰しにちょうどいいかな、と了承した。
まずは定番の動物から、と颯士がお題を出す。
「犬!」
楽勝!
「馬!」
ちょっとハニワみたいになったけどOK!
「牛!」
デフォルメされているけどなんとか!
「猫!」
学校でも出したじゃん!猫好きだから余裕!
「リャマ!」
…どんなのだっけ?
なんとなく出したものを「それはアルパカじゃないか?」とつっこまれながらも、順調にリクエストに答えていった。
他愛ない会話も男女で下校中にしていると、青春っぽくて楽しく感じるものだ。
そして、楽しい時間はすぐに過ぎるものである。
「じゃあ最後に俺作ってよ」
颯士の冗談めかした口調から、暗闇でもいたずらっぽい顔が想像できる。
顔が見えないから無理、と断ると
「えー、残念!明日は出せるように練習しててね!」
と、残念さを感じない明るい声で返してきた。
「また明日!」
と、手を振りながら去っていくのを見ると少し寂しい。
明日もまた会えるのだけど。