【リゾートバイト編2】他の人がさらっとお金使っているように見えても実は苦労していたりするから簡単にお高いところに誘ったりするとみんな不幸になるよね
いつもの放課後、いつもの美術室。
「吉村さんや、吉村さんや」
颯士は上機嫌で灯里に声をかけた。
「ほいほい、何でしょう颯士さん?」
美術室に置いてあった鉛筆で落書きを楽しんでいた灯里が顔を上げる。
「夏休みさー、海行きたいんだけど。」
灯里の手がピタッと止まる。
「それって、デ…」
「雄二のやつがさー、女の子誘って海行きたいって言うからさぁ」
被せるようなタイミングで颯士が喋ったせいで、灯里の言葉が遮られてしまったが、お構いなしに颯士は続けた。
「だから、申し訳ないのだけど、吉村のお友達誘って一緒にいけないかな?」
ちょっと顔を赤くして固まっていた灯里が辛うじて声を出す。
「あ、あぁ~、そ~ゆ~ことね!はいはい!!そ~ぉゆ~あれねぇ!!」
絞りだした声の調整がうまくいかなかったのか、変な抑揚になってしまったが、颯士は気にせず、
「この手のこと頼める女子って吉村しかいないからさ、頼む!」
と、拝んでくる。
「ま、任せなさぁい!私しか頼れないなら仕方ないね!!」
デートじゃなくて残念やら、頼られてこそばゆいやら、色んな気持ちが入り混じって変な声とテンションで進めてしまう。
「じゃあ、友達に声かけてくるね!ばいばーい!!」
ドヒューン、と美術室を出て行ってしまった。
「あ、場所は…」
言いかけた颯士の言葉は耳にも入らず。
「ま、後で連絡しておくか。」
と、颯士も軽い気持ちで考えていた。
これが後々、悲劇に繋がるとも気づかずに…
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灯里の行動は早かった。
もっと言うと、灯里の周りの友人達の行動が早かったとも言える。
「神楽坂がさぁ、夏に海に行かない?って言うからさぁ、みんなで行かないかなぁ?って」
平静を装っていた、いや、本人は装っていたつもりだったが、明らかにおかしなテンションに灯里の友人一同は
「「「ほっほぉ~ん」」」
となっていた。
他人の恋バナが大好きなお年頃の女子高生達からすると、面白い話の匂いしかしなかった。
今まであまり男っ気のなかった灯里が、明らかにおかしなテンションで言ってくるのを見て
「(やっこさん、神楽坂にホの字でっせ)」
と、女子高生達は察したのであった。
きっと一緒に海に行きたいのだけれども、二人で行くのは恥ずかしいとかそんなところに違いない。
それならば友達として我々が引っ付けてあげないとね。
言葉を交わさず、女子高生達はアイコンタクトで語っていた。
「おっけーおっけー、ウチら参加するからー!」
あっさりと女子メンバーが決まった。
「あとは、雄二くんとか来るらしいけど、男子のメンバーはあっちに任せてあるから」
灯里が説明するが、女子高生達は『そうかいそうかい、そこはどうでもいいかな』といった風に
「そうなんだー、ウケる~」
と返して会話は終わった。
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次の日、灯里から颯士に『女子のメンバーはおっけーだよー』というメッセージが来た。
雄二に伝えると大変喜んでいたので内心ホッとしていた颯士は大事なことをすっかり忘れていたのである。
颯士のバイト先の「シー・スカイ・リゾート」で集まろう、と言うことを。
そして、この近辺で海と言ったら学校から自転車で20分の場所にある『高浜海岸』という共通認識があることを。
そんなこんなで約束の日の前日に
「明日のシー・スカイ・リゾート楽しみだね!俺もバイトの休憩に合流するから!」
なんてメッセージを送っても、灯里にはどうしようもできないのである。
そもそもその手のリゾートなんて高校生が遊び感覚で行くにはちょっとお高すぎるということを颯士は知らなかったのであった。
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