【復讐編12】長年積み上げてきた人の技術は簡単には超えられない
「加勢は、いる?」
ちょっとだけ心配そうに灯里ちゃんが聞いてくる。
親指を立てて『大丈夫』の意志を示すと、
「じゃあ、簡単に…」
と、いくつか耳打ちをしてから
「では、ここは任せるね」
と、颯士君の方へ走って行った。
さて…
基本に忠実に。
正眼に構えてジリジリと摺り足で距離を詰める。
「雰囲気は少し彩乃に似てきたなぁ!」
挑発するように母の名を口にする。
お前が母の名を呼ぶな、そう思ったが安い挑発に乗るほど愚かではない。
「目元なんかはそっくりだ!!」
そう言いながら近藤は両手で触手を叩きつけてくる。
鋼鉄の塊のように硬くて太い触手。
当たると相当なダメージとなるのは容易に想像がつく。
だが、
試し斬りには持ってこいだ…!!
羽のように軽い刀、いつもの倍以上の速さで振れることを確信する。
ふっ…
軽く吐息を吐く間に数回の斬撃。
一瞬何も起きなかったかのように錯覚したが、間を置いて崩れ落ちる触手に切れ味の良さを実感できた。
これならいける…!!
そう感じたところに近藤が水を差す。
「ほぉ…」
近藤の口に笑みがこぼれた。
「なるほど、あの小娘に軽い刀を作って貰ったわけか。それじゃあ…」
近藤が出していた不気味な触手や腹の口が一気に消える。
代わりに近藤の右手に灰色の日本刀が現れる。
「文字通り真剣勝負ってわけだ」
だらり、と刀を持った右手を下げる。
『無形の位』と言うやつだ。
ふざけやがって…
母が死んでからこれまで、一度たりとも鍛練を絶やした日はなかった。
相手が妖しとは言え、単純な剣の勝負で負ける筈がない。
負けてはいけない。
緊張感が汗となり流れ落ちる。
刀の持続時間もある…
このまま時間を無駄に消費するのは得策ではない。
負けるはずが、ない!
地面を蹴り、翔ぶように横薙ぎの一撃を放つ。
「ぬるいな」
キンッ…!
渾身の一撃が近藤の刀に下からかち上げられる。
腕が引っ張られ、脇腹ががら空きになるが、近藤からの追撃がこない。
次こそは…!!
左手を刀に添えて両手で持ち直す。
そのまま渾身の打ち下ろし…ッ!!
スッ…
近藤の刀が綺麗に円を描き一撃をいなす。
そのまま近藤の刀が流れるように脇腹を捉える。
ピタッ…
脇腹で敢えて止められる屈辱…
命を握られたことで背筋が凍る。
ワンテンポ遅れて後ろに飛び退くが、殺す気があったならば手遅れだっただろう。
「お前じゃ彩乃には届かんな。」
近藤のソレは挑発で言ったのかもしれないが…
…ずっと母を目標としてきた。
母は誰にも負けない強さと、全てを包み込む器の広さがあった。
比べて私はどうだろう、先程から幾度となく生かされている。
剣の勝負ですら、内容で負けている。
私は…
母のようにはなれない…
目を背けてきた事実が襲いかかってくる。
よりにもよって母を殺した相手に言われるなんて…
頭の中がぐちゃぐちゃになった。
戦略も技術も関係なく、ただひたすらに打ち込んだ。
だがその全てを弾かれ、いなされ、最後には素手で掴まれてしまった。
「どんな名刀も刃筋が通らずに切れるかよ」
ピタリと刀を首筋につけられる。
線のように細い切り口ができ、うっすらと血が滲み出る。
「これ以上は無駄だ。諦めて一緒にこい。」
ずっと母の仇を取るために、この日のために鍛練してきた。
友達を作って遊ぶことも、年相応に恋をすることも、全て我慢してきた。
やっと仇を取って前に進める、そう思っていたのに…
「椿ちゃん!!」
あっちの戦いは終わったのだろう。
灯里ちゃんと颯士君がこちらにかけてくる。
「ちっ、能力者のガキか。そっちは厄介だな」
近藤の意識が灯里ちゃん達へと向かう。
もはや私は眼中にもないのだろう。
「椿ちゃん!アレ使って!!」
ハッとした。
まだ、出せる手がある。ぶっつけ本番だが…
刀の柄を強く握る。
すると、
刀が爆発した…!!
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