【復讐編10】やる時はやる男と思わせるには普段から積み重ねておくことが大事
何となく、そう、本当に何となく颯士はそんな気がしていた。
この新島とか言う男は、言うほど妖しでも何でもない。
「邪魔をしたことを後悔してもらうよ」
そう言って新島が産み出したのは紺色のナイフだった。
サバイバルナイフと言うやつか。
刃渡り15cmほど、確かに斬られると危ない。
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椿の情報をまとめると、幼少の頃の椿が見た光景は
①野犬のように青白く光るゾンビの群れが母に飛びかかり、切り捨てられていた。
②近藤と言う男が刀や槍を造り出し、手から触手を出していた。
③四肢を切断された近藤の手足を、これまた新たに青白く光る手足に作り直した女がいた。
多分、①や③の青白く光るゾンビや手足は、その謎の女の能力だろう。
②の刀や槍、触手を造り出すのは近藤の能力。
灯里の能力と差異はあるが、恐らくは同じ性質のもの。
全く…嫌になる。
思わずため息がでた。
こちとら、その能力が欲しくて悩んでいたのにポンポン使う奴等が出てくるんだから。
しかし、こうなるとこの新島と言う男も珍しくも何ともない。
『ただの能力者』だ。
ナイフを振りかぶって斬りつけてくる新島だが、ハッキリ言って鈍い。
刃を避けると、手首を掴み、そのまま再び足をかける。
いくら力が弱いと言っても、相手からの攻撃の進行方向へ引っ張ると自然とそちらへと倒れる。
二度も転ばされた新島は、顔を赤くしながら起き上がってくる。
「くそガキがっ…!!」
ムキになって攻めてくる新島の攻撃は、ハッキリ言って単調そのもの。
立派なナイフがただ虚しく空を斬る。
ほいっ!
三度、足をかけようとすると、ひょいっ、とジャンプをして躱される。
「バカがぁ!何度も同じ手を食らうか!!」
嬉しそうな新島だが、攻撃の体勢が既に前のめりになっている。
『パシッ』
新島の後頭部に手を置いて、そのまま地面へとただ押す。
すると新島がまたまた、顔から地面へと叩きつけられる。
練習した甲斐があった。
春葬会へ乗り込んだ時、綺羅々の攻撃は見えていた、避けられた、止められた。
能力者だろうとただ物を造り出すだけなら凡人とスピードは変わらない。
つまり、凶器は作り出せても身体能力が上がるわけではない。
それでも一般人は、一般人同士で喧嘩した時でも、パンチやキックは簡単には避けられないものだ。
だが、灯里は違う。
『モノを作り出す能力』で敢えて作り出す練習に力を入れたのは『蒸気のような粒子』であった。
蒸気機関の原理で爆発的加速、それにより威力が上がるキックやパンチ。
そしてそれを考え出し、見てきて、受けてきただけの自負はある。
油断さえしなければ
『一般人の攻撃など当たらない』
繰り返しナイフで斬りつけてくる、なんとも面白味のない展開だが、スイスイとよける。
そして、筋力がなく、相手への攻撃手段がない自分自身が戦う必要がある時、ただ『転ばせる』ことだけは可能なのではないかと気付いた。
合気道ってこんな感じだろうか?
力の向きに押すだけで面白いように転んでくれる。
これでどのくらいのダメージがあるのかは分からないが、時間稼ぎにはなるだろう。
何度か顔面を地面に打ち付けて真っ赤にした新島が起き上がりながら新たな物質を精製する。
「これならどうだぁ!!!」
ナイフを捨てて、二本の刀を作り出した。
「二刀流!これは躱せないだろう!!」
やれやれ、ナイフだの刀だの、別に能力じゃなくても持てる物出してどうするの。
大振りで斬りかかってくるが、その瞬間、風が吹いた。
少し太めの見慣れた脚が、新島の顔面に食い込みそのまま吹っ飛ばした。
全く嫌になる。
「お待たせ!!」
いつもいいところは持っていくんだから。
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