【復讐編9】いよいよ始まるぞ、と言わんばかりの引きをするための回です、はい。
『カチッ…』
時計の針が0時になったことを示した。
颯士、灯里、椿の3人は敵の襲来を予想していたが、意外にも何も起こらない。
「もしかして、敵さんももう、椿さんのこと忘れちゃったんじゃないの?」
と、半分ほど願望を含む予想を颯士が言う。
「それなら、それに越したことはないんだがな…」
そう言いながらも、椿はそこまで嬉しそうではなかった。
母の敵を自分の手で討ちたい気持ちがやはりあるのだろう。
0時4分、ほんの少しだけ0時を過ぎた時に、事態に変化が起こった。
道場の扉をコンコンとノックする音がする。
そして、ゆっくりと道場の扉が開かれた。
「こんばんは、未成年がこんな時間に何しているのかな?」
颯士は一瞬
「(警察の巡回かな?)」
と思った。
だが、声の後に顔を見せたのは、警察ではなかった。
「(近藤…じゃ、ない!?)」
そこにいたのは、スーツを着た眼鏡の若い男であった。
「おや、今日はデータにない子が他にもいますよ、2人も。」
眼鏡スーツ男は、奥にいる誰かに話しかけた。
「放っておけ。ガキが多少増えたところで何も変わらん。」
「知らないですよー、後で上に怒られても。近藤さんいつも仕事が雑なんだから」
「「「(近藤!?)」」」
3人に緊張が走った。
今度こそ椿の母の敵が来ている。
「うるせぇぞ新島。若造が偉そうにすんじゃねぇ。」
近藤が眼鏡スーツ男、新島とやらに怒鳴り付ける。
「(しまった、十分あり得る展開だったのに)」
颯士は自分の見積もりの甘さに腹が立った。
最悪の場合、近藤1人なら椿がやられそうになったとしても灯里が乱入して倒せばよいと思っていた。
「(あの、新島と言う男がもし戦闘員なら…まして近藤よりも強かったとしたら…)」
椿のピンチに灯里が乱入して助けることが難しくなる。
「吉村、もうアレ、始めといてくれ。なんとか時間稼ぐから」
颯士がそう言って前へ出ると、
「近藤は私がやる。」
椿が続く。
「…わかった」
いつになく真剣な表情で灯里は集中し始めた。
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なんとか5分、稼ぎたいところだ。
何もいきなり戦い始めなくても良い。
むしろ、戦いが始まるとすぐにやられてしまう可能性すらある。
いつも灯里頼りなのは情けないが、それでも灯里が来てくれれば勝てると信じている。
先ほど新島と呼ばれていた方の男が道場に上がり声をかけてくる。
「えっと、僕はそっちのお嬢さんに用があるんですけど」
こんな夜中に人の敷地に来てどんな用が?
「君こそ、この家の者じゃないだろう?」
泊まりにきた友達ですけど。
「君には関係ない話なんだ。」
…。
「分かったらどいてくれないかい?」
…まぁ、関係ないなら仕方ないですね。
「そうだろう、話が早くて助かるよ。」
体を半身にして新島を避ける。
よしよし、それでよい。と言わんばかりに通り抜けようとする新島が、
綺麗に半円を描いてスッ転んだ。
『文化系男子に転ばされるなんて、噂の化け物の仲間も大したことないですね』
新島はゆっくりと起き上がると額に血管を浮かべたまま微笑んだ。
「死ぬ覚悟はできているようだね」
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