学生時代まったく交流なさそうだった男女が大人になって結婚したりするのは大人になって魅力が増えたからなのだろうか
灯里の立場からすると最善の流れだったのかもしれない。
下手に広まったりせず、被害を最小限に留められた。
しかし困ったものである。
「まずは簡単なものから作ってみよう」
そう声をかけてくる颯士は実に活き活きとしている。
穏便に済ましたかっただけの灯里からすると少し面倒なのだが、秘密をばらされては堪らないと話を合わせざるを得なかった。
「イメージしやすいものから作ってみて!」
颯士はデッサン用の球体や立方体をいくつか机の上に並べて期待に満ちた眼差しを向けた。
「イメージ、と言われても…」
手にもってみたり、凝視してみたりするも、何も起こらない。
うーん…
10分ほど試行錯誤してみたが特に変わったことは起こらなかった。
「強い感情が必要なのかな?」
と、考え込みながら漫画の設定でよくありそうなことを呟く颯士を横目に
「今日はもう帰ろうかな」
と、遠慮がちに進言。
早く帰って某執事アニメにでも溺れていたい。なんてボケーっと考えつつ。
「あー、じゃあ俺も一緒に帰ろうかな」
画材やら何やら片付けながら颯士が言った。
部活よりも灯里と色々と話しながら帰りたいといったところが見え隠れしている。
正直、少し不満もあった。
久しぶりに幼なじみと交流を持つこと、それ自体は悪くない。むしろ良い。成長するにしたがって小難しくなる男女の交流が開けるキッカケがあったこと自体は嬉しくもある。
しかし颯士は「灯里」ではなく「謎の現象」に興味があるだけではないか。
別に恋愛感情などないが、自分と言う「個」を見てくれていないことはなんとなくモヤモヤする。
そんな複雑な乙女心をよそに、
「ちょっと待ってて!」
と、颯士はコンビニへ走って行った。
すぐに戻ってきた颯士の手にはアイスクリームが2つあった。
「ほい、どうぞ」
と、颯士が手渡してきたのは国民的アイス「ギリギリ君」のチョコミント味。
チョコミントは好きだが、また万人受けはしないセレクトをしたものだ。
もし嫌いだったらどうするんだ、とデリカシーのなさが顔を覗かせていたが
「付き合ってくれたお礼」
と、明るい顔を向ける颯士に、早々に切り上げたことへの若干の罪悪感も感じなくもない。
あー、昔はよくこんな風にアイス食べながら遊んだものだったよなぁ。
今日みたいに暑い日に虫取に行ったり、川で遊んだり…
なんとなくそんなことを思い出すとまたノスタルジックな気分になる。
「なんか、一緒に歩くのも久しぶりだよな」
と、颯士が何気なく口にした。
同じようなことをこいつも考えていたのか、と思うと少し笑えてきた。
「昔はこのあたりにひまわり畑があったりしたよね」
と、目の前の有料駐車場を手で表してくる颯士は、幼い頃の無邪気さも残していた。
そうそう、そのひまわり畑でよくかくれんぼをしたものだ。
背の高いひまわりは幼い頃の灯里たちを隠すには十分なサイズで、かくれんぼにはもってこいだったのだ。
あの頃は私よりも小さかったのよね。
きっとあの頃、大人のように大きく感じたひまわりも、今は小さく感じるんだろうな…
と、思い出に耽っていた矢先のことだった。
最初に気付いたのは颯士だった。
「…てる!」
え?
「出てる出てる!!」
颯士の興奮する声に我に返ると、灯里の足元からにょきにょきと真っ白なひまわりが生えてきていた。