【復讐編1】異性と遠出するといつもよりもカッコ可愛く感じるものだよね
「こないだのコンクール、受賞しちゃった」
照れ臭そうに颯士が伝えてきたのはいつもの放課後。
何が『しちゃった』よ、可愛い子ぶった言い方しちゃって、とは思うものの、いつも努力する姿を見ていたので素直に嬉しくもある。
隣町の市の開催する小さな美術展、決して大きな賞ではないが、颯士の嬉しそうな顔を見ていると大きな意味があったようにも感じる。
これを口実に、という下心が全くないわけではないが、評価されているところを一目見たい気持ちに偽りはない。
会場に作品を見に行きたい旨を伝えると、
「描いている時いつも見てたじゃん」
と悪態をつきながらも、見て欲しそうな様子が伝わってくる。
それじゃ、明日10時、現地集合で!
多少強引ではあるが、これくらいの楽しみあっても良いと思う。お互いに。
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入賞作品の展示場所は隣県の市民文化ホール。
行きなれていない場所なので遅刻しないよう待ち合わせ時間よりちょっと早めに来たつもりではあったが、よっぽどそわそわしていたのだろう、既に颯士は入り口で待っていた。
いつもより少しお洒落をしてきたものの、デリカシーなし男がそんなところに気付くわけもなく、今日の主役は颯士だし、まぁいっかの精神で早速展示ホールに入場した。
人の指を形作る粘土細工、抽象的すぎて何を表しているのか分からない四角いオブジェ、鳥が魚を捕らえる瞬間を捉えた写真、自分の背の2倍はあろう大きさの肖像画…
芸術にはそれほど明るくないが、作品の数々には『エネルギー』が込められているのを感じられた。
「俺のはこっち」
部門ごとに分けられた展示ブース、同じ部門の応募作品を無言で見て回る颯士は真剣そのものだ。
いくつか並べられた作品の中に颯士の作品を見つけた。
相対的に見ても大きく目立つような取り上げられ方ではないが、それでもここに颯士の作品が並べられていることが嬉しかった。
それに加えて、絵に触れる機会が増えてきたことで、人の絵を見ること自体にも興味が芽生えたように感じる。
じっくり観察して、頭でイメージして…
「こらこら、吉村さんよ」
颯士に言われてハッと気付く。
最優秀賞として飾られていた絵。
大正時代を思わせるような袴の美人。
その絵には吸い込まれるような魅力があった。
思わず無意識のうちに美人を想像して創造してしまっていたようだ。
すぐに回収したことと、周りに人がいないタイミングだったので事なきを得たが、颯士の絵を差し置いて他の作品に見惚れていたようで少し申し訳ない気持ちになる。
しかし颯士は気にした様子はなく、
「これ、魂が込もってるよな」
と、言う。
純粋にそれは、尊敬の念すら抱いているようにも見えた。
こちらが気を遣っていることを知ってか知らないでか、
「そろそろ出ようか」
と言ってきた。
気遣いだとしたら、普段のデリカシーなし男と同一人物とはとても思えないな、と内心ニヤニヤしてしまった。
ここで解散するのも惜しいし、せっかくだからどこか観光していこうか、と誘ってみると
「いいよ、どこ行こっか」
と、すんなり承諾。
この近辺で有名なところは、神社、植物園、滝、唐揚げ屋、あとは夜景の綺麗なスポットがいくつか…
この中だと神社が一番近いかな?
いくつかある神社のうち、徒歩でいける距離のものを調べてみる。
「透明な鳥居と、赤い千本鳥居があるんだってさ」
颯士がスマホをポチポチしながら呟く。
神仏にはあまり明るくないが、写真を見る限りだと『映え』そうな美しさがある。
次回のコンテストに向けて受賞祈願をするのも悪くない。
「じゃあそこで決定!」
二人だけの満場一致で神社へと向かうこととした。
少し距離はあるが、色々話しながら歩いている時間さえ、かけがえなく感じて、到着しなければいいのにとすら思えた。
しかし、そんな思いとは相反して楽しい時間とは一瞬で過ぎ去るもので、あっという間に神社に到着した。
「確かにこれは『映え』るな」
透明、と言うよりはエメラルドグリーンに近い鳥居を見て、感心したように颯士は呟いた。
クリスタルをイメージさせる、その鳥居をくぐると赤い鳥居がズラ…っと連なっていた。
「これが千本鳥居か」
実際に千本あるのかは分からないが『千本あるかのような』圧巻さはある。
連なった鳥居をくぐるのは、さながら異世界への入り口に招待されているようにも感じる。
鳥居と鳥居の隙間から差し込む光が良いエフェクトとなり、『天国へ行くのってこんな感じなのかな?』なんて考えもぼんやり浮かんできた。
それから二人で参拝し、境内に座り込んでひと休みすることにした。
「しかし、今日の展示作品面白かったよな」
颯士が今日みた作品の様子を嬉々として語り始めた。
「あの謎のオブジェとか理解できなかったわ、ただの歪んだ四角じゃないのか、ってね」
笑いながら言う颯士に、こんな形のやつでしょ?と手のひらの上で作ってみせる。
「似てる似てる!」
と笑う颯士に、私も芸術家になれるかしら?とふざけてみせると
「なれるなれる、能力使ってスーパークリエイターで売りだそうぜ」
とふざける颯士にこちらも思わず笑みが出る。
それじゃあこれのタイトルは?
と、展示されていた作品を模した物質を作り出した時だった。
「出たなっ!!妖し(あやかし)め!!」
澄んだような、しかし突き刺さるような声が境内に響き渡った。
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