恋に落ちる瞬間とは何がキッカケになるかわからないものだ
「俺はお前のことが…」
胸の奥からわき上がる感情が肺の中を押し潰すかのように広がる。
胸が締め付けられるようだ。
思わず胸のあたりを握りしめてしまうが苦しさは収まらない。
浅い呼吸、止まらない鼓動
これが…
これが『恋』と言うやつなのか。
こんなに苦しい気持ちは生まれて初めてだ。
俺は、お前に告白する…!!!
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堕悪帝国が1人の女(+取り巻き2人)に崩壊させられてから一週間。
あの日のことが今でも鮮明に思い出される。
天女…そう、例えるなら天女だ。
まるで天女のように天翔ける姿は思わず見惚れてしまう美しさがある。
そこにいるだけで自然は喜び、鳥は舞い、龍が踊る。
もう一度逢いたい。
逢って気持ちをぶつけたい。
気持ちのぶつかり合い、真っ向勝負だ!!
しかし名前すらも分からないから探しようもない。
もどかしいが、まずは所在を掴まなねばなるまい。
スマホを取り出し、舎弟の1人に電話をかける。
「おう、トシか。ちと頼みたいことがあるんだが…」
舎弟は快く引き受けてくれた。
頼んだぞ舎弟。お前にかかっている。
「チン撃姫…か…」
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「まったく、人づかいが荒いんだから…」
ブツブツと文句を言いながらも怒らせては怖いと舎弟こと『トシ』は聞き込みに入った。
「こないだの鬼強いおねーちゃんのことを知りたいんスけど…」
まずは確実に繋がりがある線に電話をしてみる。
「う~ん、教えてあげてもいいんだけど、ちょっと高いにゃよ?」
「にゃよ」じゃないっスよ…とは思いながらも、お値段を聞いてみる。
「おいくらっスか?」
「名前教えるのは5,000円、学校教えるのは3,000円、連絡先は30,000円ニャ」
この費用を回収できる見込みはない。
見込みはないが、手ぶらで帰ったら何されるか分かったものでもない。
「じゃあ、学校を教えて欲しいっス」
「まいどありニャ!」
ひどい目に遭うリスクと天秤にかけた時に出せるギリギリの出費。
「いたい出費っス…」
そう言いながらも、これで安心と貸しを買ったと思えば…と思うトシであった。
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数時間後、舎弟から連絡が来る。
「通っている学校がわかったっス」
「おぉ、早いな!さすがトシだ」
よし、これでこの胸の苦しみを吐き出すことが出来そうだ。
どことなく髪型にも気合いが入る。
「これでバッチリだ…あの女もイチコロだぜ」
「そうっスかねぇ…」
どことなく呆れたような物言いが気になるが、今日は機嫌が良いから勘弁してやる。
「よし、俺は、キメるぜ…!」
気合いを入れる俺。
「いちいち何か古くさい感じなんスよねぇ」
こいつは後で気合いを入れ直してやろう。
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「この辺りだったかな?」
学校の近くに来てみたものの、思いの外でかい。
生徒も多いことだろう。見つけるのは骨が折れそうだが、俺の心に燃える炎はこのくらいで消えたりはしないぜ。
「おい、そこのねーちゃん、この学校で『チン撃姫』って呼ばれてる女、知らないか?」
何故だろう、周りから冷たい視線を感じる。
「チン撃ですって…」ヒソヒソ
「変態よ、変態」ヒソヒソ
「この間の変態の仲間かしら」ヒソヒソ
どうやら聞き込みは失敗のようだ。
仕方ない、明日はもうちょっと早い時間から張り込もう。
今日はもう帰っているかもしれないからな。
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翌日。
近くの茂みで待つこと2時間半。
なんと、愛しのチン撃姫が走ってくるではないか。
急いでいるのか相当な速度だ。
ヤバい、すぐ止めないと走り去ってしまう。
しかしなんて速さだ、飛び出して止めるか…?
一瞬、ほんの一瞬の躊躇の間が明暗を分けた。
何か下膨れした蛇がチン撃姫に飛びかかった。
「危ない!!」
咄嗟に飛び出して蛇を止めようとするが、先に見覚えのある鷲が飛んで来て蛇をぶっ飛ばし、なお勢い衰えずこちらに飛び込んできた。
「あがっ!?」
咄嗟のことで身構えていなかった。
いつもならこのくらい止められる速度なのに。
額に直撃を食らって倒れている間にチン撃姫は走り去って行ってしまった。
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「「早めの反復練習です」」
チン撃姫と取り巻きの男がテストのコツ的なことのインタビューに答えている。
な、なんだこの空間は…
ヤバそうなので今日はやめておこう。
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なかなか、なかなかチン撃姫に想いを伝えられない。
もどかしい気持ちばかりが募る。
今日は、今日こそは絶対想いを伝えるんだ…!!
校門で待ちぶせをしていると、間もなくしてチン撃姫が出てきた。
よし、行くぞ!…行くぞ!!
……1人になるタイミングを見計らって行くぞ!!!
ビビってるわけではないぞ!!
あれはチン撃の友達か?
「灯里ちゃんばいばーい!」
チン撃は灯里と言うのか。なんて可憐な名前なんだ。でかしたチン友。
「吉村さんまた明日~!」
それにしても人望はあるようだ、色々な人が声をかけている。
まさに俺に相応しい。
名字は吉村と言うのか、結婚したら俺の名字になるからあまり関係ないな。
そんなことより早く1人になれ…!
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1人になるのを待つこと15分。
家にも帰らずに川原に来て何をするつもりなんだ。
誰かを待っているのか、はたまた1人黄昏ているのか。
しかし今がチャンスだ、ついに気持ちを伝えるぞ…!!
「お待たせ!」
駆け寄ろうとした瞬間、やってきたのは取り巻き(男)の方!
くそっ!モブのくせに邪魔だ!!どいつもこいつも俺と灯里の邪魔をしやがって!!許さん!!
『俺の灯里に近づくな!!!』
驚いているモブ男と灯里(驚く顔も可愛い)がこっちを見た。
灯里が、こっちを見てくれた!!
モブ男を押し退けて凄い勢いで駆けつけてくる。
灯里も俺と同じ気持ちに違いない!!!
来てくれ灯里!!!
「誰がお前のだ!!!!」
恐ろしい速さの蹴り…
が、俺の股間を蹴り上げた。
薄れゆく記憶の中で、幸福感を感じる自分がいた。
「まったく、何なのよ…」
堕悪帝国元リーダー『サトル』
性癖を歪められたこの男の、恋の戦いはまだ始まったばかりだ。
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