女心を理解してさりげない優しさを持ち合わせることが良い男のコツとなる
自分から言い出したことだから、颯士は何も悪くないのは分かっている。
だからこそ、余計に気持ちのやり場に困っていた。
久しぶりに街に出てブラブラしても、素直に楽しめない。
噴水の見えるベンチに座り、ため息をついた。
本当は街に行きたいのではなく、颯士と普通っぽくお出かけとかしたかっただけだったんだなぁ…。
背けていた自分の気持ちに目を向けてみる。
素直に誘えば多分、普通に付き合ってくれていただろう。
素直に…。
それじゃ颯士のこと好きみたいじゃん。
色々な考えが浮かんでは絡まって余計に混乱する。
心の中を具現化したものはいつも見せてるのに、肝心な心の中は伝わらないものだなぁ。
2つ目のため息。
「こんなところで天下無敵のちん撃姫様がうかない顔をしてるじゃないか」
ちん撃ゆーな!
と、反射的に返した後に、聞いたことある声の方に顔を向けると、いつかの変態男がいた。
げっ、変態男…
と、思わず声に出すと
「誰が変態男だ」
と、ちょっと表情をヒクつかせながら怒りを抑えている様子が見えた。
「一応、谷崎と言う名があるんだがな」
胸ポケットからタバコを取り出し、吸おうとする谷崎に
「ここは禁煙です」
不機嫌そうにそう告げると
「チッ、お堅いねぇ」
と、タバコ箱の中に戻した。
「で、こんなところで何してるわけ?今日はあのニーチャンは一緒じゃないのか?」
つつかれたくないところを巧みにつついてくるな、この男。
「どうでもいいでしょ、それより何の用?またぶっ飛ばされたいの?」
イライラを遠慮なくぶつけてしまう。
図星ついちゃったかな、って苦笑いをしていたが、谷崎とやらはふと何か思い付いたように口を開いた。
「そうだ、ちん撃姫、ちょっと付き合え」
谷崎は灯里の手を取り駆け出した。
え、ちょっと…
断ろうとしたが聞く耳持たず、グイグイ引っ張って行く。
到着したところは
バッティングセンターだった。
「え…なんで?」
呆気に取られていると
「イライラしてんだろ?発散してけよ」
ほいっ、と軽くバットを投げてきたのでキャッチする。
「結構、スッキリするぞ」
…
断るのも何となく気まずいので、バッターボックスに立つ。
飛んできた球を力一杯打ち返すと大きく弧を描いて飛んでいく。
次から次へと打ち返すうちに溜まっていたものが吹き出してくる。
まったく人の気も知らないで!
いつもいつも鈍感で!!
そんなんだから彼女の1人もできないんだぞ!!!
このっ…!!
『颯士のばっかやろー!!!』
思わず叫びながら打ち返してしまった。
ウジウジ悩む自分らしくないところが吹っ飛んだような気分だ。
「ちったぁスッキリしたか?」
タイミングを見て谷崎が話しかけてきた。
さりげない気遣いを感じ取れて、素直に
おかげさまで
と返すと、
「しかし、天下のちん撃姫様も男のことで悩むんだねぇ」
しみじみと言ってくる谷崎。
『ちん撃姫じゃない。灯里。』
そりゃ悪かった、と言わんばかりの態度の後に
「灯里、な。覚えておくわ」
頭をポンポンッと軽く叩いて
「じゃあな、言いたいことは溜め込まない方がいいぞ。」
そう告げると背を見せて、軽く手を振りながらさっていった。
タバコの匂いがほんのり鼻に残った。
谷崎か、案外良いやつなのかもしれないな。
スッキリして帰路につくことにした。
明日からまた、特訓頑張るかな。
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