自分で決めたことでもそれを理由に無理強いしてはいけない
最近忘れがちではあるが、吉村灯里は今時の女子高生である。
どちらかと陽キャ側に属し、服装なども気を遣っているし、可愛い格好も大好きな女子高生なのである。
それが最近ではどうだ。
半グレの巣窟に連れ込まれては大暴れし、怪しい信仰団体に乗り込んでは大暴れし、次は金さえ貰えばなんでもするような奴らをぶっ潰そうとしているときたもんだ。
果たして普通の女子高生とは何だったのか、最近灯里は思い出せずにいた。
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「白鷺撃!」
颯士が投げる3つの石を空を舞うシラサギ…ではなく白い鷲が順番に撃ちた落とす。
せっせと石を上空へ投げる颯士が、
「遅い遅い!もっとイメージ早く!」
と、部活の監督よろしく言ってくるのはちょっとイラッとしたが、『堕悪帝国』とか言う恥ずかしい名前の集団と戦うためにこの技は使いこなさねばならない。
しかしこの『堕悪帝国』とやらが厄介で、いつどこに集まっているのか情報がつかめない。
さっさと倒してスッキリしたいところなのだが、なかなか居場所を捉えられないせいで話が全然進まない。
念には念を押して特訓は継続しているが、まるで終わりが見えないテスト勉強のような気分だ。
『堕悪帝国』を倒して謝らせる。
この目標は自分で決めたことなのも分かっている。
達成したいとも。
だけど、だけど
たまには息抜きしたい!!!
大体、何故か颯士のことが気になる弱みで付き合ってはいるが、こんなに毎日特訓するのが当たり前になるとは、とんだブラック部活だ。
今日1日だけでも息抜きがしたい。
心の休息がほしい。
しかし特訓を休むとは言いづらい…
そこで颯士に提案することにした。
勝負をして勝ったら今から街に繰り出してなんとかフラペチーノを奢れ、負けたら何でも言うこと聞く、と。
「何でも…だな?」
そう言うと颯士はニヤリと笑った。
しまった、何でもは言いすぎた。
スカートを捲って見せろとか、胸を触らせろとか言われたらどうしよう。
顔が熱くなるのを感じたが、颯士は不思議そうに
「顔赤いけど大丈夫?」
とか言ってくる始末。
さすがデリカシーなし男、ノーデリカシーマン。
何にしてもさっさと始めるよ、と勝負を開始した。
勝負の内容は、「白鷺撃」(鷲)の練習も兼ねたもので、颯士が投げる水風船を白鷺撃で打ち落とすと言うもの。
ただし、撃ち落とした時に割れた水風船の水が灯里にかかったら灯里の負け。
打ち落とせず指定したエリア(灯里の半径5m程度)に落ちて割れても負け。
10球投げて全部防ぎ切れば灯里の勝ち。
要約すると「さっさと撃ち落とせば灯里の勝ち」と言うことである。
「とりあえず様子見がてら…」
颯士選手が大きく振りかぶる。
ブォッ!
思いの外スピードが乗った一球に一瞬、非力な癖に、と思わなくもないが即座に鷲を発射してエリアより大分前で撃ち落とした。
甘い甘い、と思っていると次は2発同時に飛んでくる。
両手で同時に投げたのか、ふんわり山なりにしか投げられなかったようで、これも2個の水風船の間に鷲を飛ばし、両翼でそれぞれ割る。
どうだ!2個落とし!
と、ドヤっていると、油断したところに時間差で豪速球がエリアに向かって飛んでくる。
わわっ、白鷺!
咄嗟になんとかエリア前ギリギリで破壊できたが、イメージが怪しかったのかすぐに鷲がドロドロになる。
「今の怪しかったんじゃないの?吉村さん」
ちょっと汗を流しながらも颯士が不適な笑みを浮かべる。
そちらこそ、と返しつつお互い警戒し合う。
間。
この間にイメージを固める灯里。
次の一球は…
地面に対してかなりスレスレの速球、エリア外で地面に落ちそうでもあるが
…下に意識を向けておいて
三連白鷺撃!!
読み通り!
正面中段からさらに2つ、連続で飛んできていた。
三匹の鷲で1、2投目を撃墜するが、3発目が鷲の額に当たり、割れずに跳ねる。
ぷるんっ
イレギュラーに焦るが確実に当てるためにさらに2連の鷲を発射、ドロドロになりながらも辛うじて割る。
ここがチャンスとばかりに畳み掛ける真正面ストレート。
このっ…!
ほとんど泥状態の鷲でなんとか止めるが、水風船は割れずに泥とその場に落ちる。
が、ほぼ同じコースに重なってもう1つ飛んできている。
なんてコントロール、野球部入れよ…!
思い付いた悪態を口に出す余裕もなく、よもや鷲でもなんでもない、とろろ芋波でなんとかエリア外に水風船を押し出す。
今何発目だっけ?
そう思った時だった。
バシャッ!
真上から頭に水風船が落ちてきた。
え?
「よっし!」
颯士の喜ぶ声が聞こえる。
『太陽の逆光を利用して水風船が見えなくなる作戦』とやらの蘊蓄を誇らしげに語っているが、そんなことどうでもよくて、太陽の光どころか急に視界が滲んで何も見えなくなってきた。
心の奥から込み上げてきたものがポロポロと溢れていく。
「え、ご、ごめん、痛かった?タオル使う?」
焦った颯士が色々と声をかけてくるが、溢れてきたものは止められなかった。
ごめん、今日はもう帰るね…
それだけ伝えて、川原に置いていたカバンを拾った。
後ろで困惑している颯士には悪いけれど、フォローする余裕がなかった。
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