勘違いに気付かないまま大人になると世間の常識も非常識になる
「堕悪帝国?」
いつもの放課後の美術室、灯里は何とも言えない複雑な表情をスマホに向けていた。
「そうニャ、金のためなら何でもする連中ニャ」
画面の向こうに猫耳パーカーが揺れている。
「あんたねぇ、そんな連中に依頼したのは誰なのよ?」
呆れた様子で返すが、画面の向こうはどこ吹く風である。
「バイクで狙ってきたなら多分そいつらニャ。まぁ男女でイチャイチャしながら歩いていれば狙われても仕方ないニャ」
「なっ…イチャイチャとかしてないし!」
咄嗟に言い返すも、全く聞いてない様子で
「ハイハイ、じゃあ行動場所とか分かったらまた教えるにゃ~、バイバイにゃ~」
と、通話を切られてしまった。
「まったくもぉ…」
春葬会が解散してから一週間、ようやく颯士の制服を奪った相手の手掛かりが入った。
制服自体は返ってきているし大事にしなくてもよい。
颯士は言ったが、
他にも被害者が出ていることもあり野放しにするわけにはいかない。
と、灯里の正義感に火をつけてしまったので、止めることは無理と感じた颯士は、条件をつけた。
『ただし、行くときは2人で!』
そんなわけで今日は作戦会議である。
『堕悪帝国』とやらは暴走族のチームらしく、集団でバイクを走らせては悪事を働くらしい。
走る鉄の塊を相手に蹴ったり殴ったりするのは、いくら灯里が能力者とは言っても分が悪い。
しかも相手は複数。1人を相手にしている間に他の相手に攻撃される可能性もある。
「やはり防御重視にするべきだと思う」
颯士はそう言いながらスケッチブックにイメージ図を書き出す。
「こんな感じで全身を覆えばどこから何体きても耐えられると思うのだけど」
どことなく得意気に語る颯士。
しかし灯里はイメージ図を見て
「却下」
と、ボツにする。
「えー、なんでー、かっこいいじゃん」
珍しく口を尖らせて抗議する颯士に
「いやいや、女子がする格好じゃないから」
と、スッパリ切り捨てる。
「それよりも、飛び道具はどう?距離さえ取れればこっちの方が安全じゃない?」
灯里は攻撃特化を提案する。
「けれど白龍撃みたいな大技だと1人倒せても後が続かないのでは?」
先程の案をボツにされて不満なのか、ちょっと不貞腐れながら指摘する。
だが実際に颯士の言う通りでもある。
回収さえできればエネルギーはある程度賄えるが、大きな白龍を出している間は無防備、複数を相手にするにはちょっとリスキーなことも否めない。
「こう、よくあるバトル漫画みたいにエネルギーの弾を手のひらから発射とかするのはどうなの?」
手をつき出すジェスチャーをしながら颯士が提案する。
「いやー、どうもあの手の形が曖昧なものはイメージしづらいのよね」
灯里も真似て、手をつきだしてエネルギーの弾を発射してみるが、生卵を割ったかのようにべちゃっと地面に落ちた。
「よっぽど熟知しているものか、その場で絵を見てイメージしたものじゃないと短い時間しか形を保てないし」
手遊びのようにいくつか思い付いたものを具現化するが、泥のモンスターとなっていく。
「…これなーんだ」
「溶けたゾンビ」
「ハズレ…」
不毛な『作ったもの当てゲーム』など挟みつつ、颯士はサラサラッと筆を滑らせる。
「それじゃ、こんなのはどうよ?」
ほい、と出されたスケッチブックを灯里はじっと見つめる。
「鷹…かな?」
「いや、鷲」
「よく違いが分からないけど…ただの球体飛ばすよりかっこいいじゃん!」
妙なところに琴線があるのが隠れオタクの灯里らしいが、早速イメージ化してみる。
「ほい!」
正面にかざした手から白い鷲がでてくる。
が、ポトッと落ちる。
「勢いつけないと!ただのハリボテ出してるのと一緒だよ!」
颯士が監督のように口を出す。
「わ、わかってるって!」
改めてイメージしなおす。
爆発のイメージ+飛翔する鷲のイメージ。
『シュウゥゥゥ…』
手から蒸気のようなエネルギーがほとばしる。
「白鷺撃!!」
灯里の手から勢いよく放たれた白い鷲が美術室の石膏像や画板などを弾き飛ばす。
「あー!あー!」
焦る颯士をよそに
「ほとんどグライダーだけど、威力はまぁまぁのようね!」
と満足そうにしていた灯里でしたが、その後お片付けはちゃんとしました。
※余談ですが、白鷺は「しらさぎ」のことなのを灯里は勘違いしたままでした。
~fin~
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