吉村灯里は半裸と執事がお好き
神楽坂颯士は美術部員である。
美術部の部員は2人(うち1人はユーレイ部員)
退屈な1日の授業を終え、美術室に向かっていた。
創作は良い。現実に存在しないもの、空想の中だけのものを形にすることができる。
絵でも彫刻でもそう。
芸術で生業を立てるのは難しいかもしれないが、働きながら創作活動が続けられればいいなぁ、と思いつつ。
放課後とはいえ、まだ十分に日光がある時間。描きかけの絵も結構進められるかも。
そんな期待もあるが、没頭しているとすぐに日が沈んでしまうことも知っている。
颯士は早々に作業に取りかかろうとしていた。
結果として周りに目もくれず、自分のキャンバスに向かっていったのは幸運だったのかもしれない。
半裸の執事の傍らで吉村灯里はそう思った。
そもそもこれは現実なのか。
いくら推しメンだとしても、半裸の執事に登場されては非常に困る。
先程までもくもくと出ていた、ドライアイスの煙のような噴出物はいつの間にか止まっていた。
なんだかドッと疲れた…
何も半裸執事と自分も一緒に隠れる必要はなかったかもしれない。
美術部には迷惑かもしれないが、置き去りにして早々に立ち去れば良かったかもしれない。
いやいや、見つかって公にされるのもちょっとばかりバツが悪い。
そもそも不法投棄はNO!
と、ほんの少しの倫理観が邪魔をして逃げる機会を失ってしまった。
灯里と颯士は濃くも薄くもない、なんの面白味もない関係である。
小、中学校からずっと同じ学校ではあるがクラスが同じだったことは小4と中2の時だけ。
小学生の時はよく同級生含めて遊んでいたがいつの間にかそれもなくなった。
+でも-でもない関係性だが、半裸の執事と共に隠れているところを見られたら、-に転落することは間違いない。こんなところでナニしていたんだ、と軽蔑されるだろう。ナニもしていなくても、ナニをしていなくても。
なんとかやり過ごして颯士が帰った後に帰ろう。それに、人が隠れているなんて思いもしない限り、案外見つからないものなのかもしれない。
…と言うのも幻想かもしれない。
日が沈み始めて、夕日の濃い橙と黒い影が目立つようになってきた。
描きかけの絵をしまい、美術室を後にする颯士を確認し、半裸の執事をかかえて灯里も美術室を出ようと思った。
半裸執事は灯里の身長とそう変わらない大きさだが、どういうわけか重さを感じない。
暗くなってきたことだし、目立たないうちに山にでも捨ててしまおうか、はたまた川にでも流してしまおうか。いやいや事件になってしまいそう。死体と間違われてしまうかも。
そもそもNO!不法投棄!
なんてことを考えながら美術室のドアを閉めると
目の前に颯士がいた。
なんのこともない、忘れ物を取りに来たと言うありがちな展開だが、完全に意表をつかれた。
「み、みるなぁ~!!!」
とっさに隠そうとした半裸執事は大きな拳となって颯士をぶっ飛ばしていた。
灯里は力を放出しきったかのようにその場にへたりこんだ。
数メールほど吹っ飛ばされた颯士はぼんやりと考えていた。
「半裸の執事がいた気がした」