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好きなものを好きと節操なく言う世の中が必ずしも良いとは限らないけれども

それはいつもの放課後のことであった。

ほとんど部員もいない美術部とは言えど、たまには活動らしい活動をしないと美術室も使わせて貰えなくなってしまう。

コンクールも近いので絵を描かないといけない。

そんな中、特訓も休みだと言うのに灯里は美術室まで来てくれている。


絵を描くところを待っていても退屈だろうに、灯里って面倒見いいよなぁ。


素直に感心する。灯里はいい奴だ。


しかしさすがに黙々と作業だけして待たせるのは申し訳ない。


それに灯里には大きな恩がある。


自分の為に怒って行動してくれたこと。

危険なことはしてほしくはないが、素直に嬉しかった。


プレゼントとかちょっと照れ臭いけど…


『戦う執事展ペアチケット』


高校生のお小遣いでは少し厳しかったが、灯里にしてもらったことを考えると安いものだ。


多分、今までの様子からして、灯里は『戦う執事シリーズ』を好きなのだと思う。

しかしこちらの勘違いという可能性も十分ある。


自然に雑談して、『戦う執事シリーズ』が好きかどうか確認してから渡しても良いかもしれない。



カバンにつけているキーホルダーも執事シリーズに出てきているフォークとナイフだと思う。

パッと見分からないけど多分そう。


よし、戦う執事の話題で盛り上がったところでプレゼントを渡すぞ。


「吉村はさ、戦う執事シリーズとか好き?」


「え?し、つじ…?」


あれ、不意に話しかけたのがまずかったかな?聞き取れていなかったようだ。


「ひ、ひつじって何のことだメェ?」


まさかの紀元前のギャグ、もしかして執事シリーズ知らない感じ?


「いや、執事だって。戦う執事シリーズ」


反応が悪さが不安を煽る。


このままじゃプレゼント作戦が失敗に終わってしまう。


「見てるよね?執事シリーズ」


なりふり構わず聞いてみるも、灯里の顔色が悪くなるばかり。


どっちなんだ?知ってるのか?知らないのか?


「な、なんだっけそれ、聞いたことはある気がするけど…メェ…」


め、メェ?

まさか本当に知らないのか?

けどカバンのキーホルダーは?


「いやほら、だってカバン」


焦ってカバンを指差す。しかしこうなると、本当にあのキーホルダーが執事シリーズのものなのかも自信がなくなる。


能力のことから成り行きで交流はあるが、本来なら灯里は陽キャ側。


よく考えたらアニメとか全然見ない人種なのかもしれない。


だとしたらマズい。全ての計画がパーになる。


「あぁー、このキーホルダー?智子に貰ったんだー。可愛いけど何のキーホルダーとか知らないんだー。ただのフォークとナイフだと思うけどこれがどうかした??」


知らないでつけていたのか…?


知らないでフォークとナイフとかつけるか普通?



「いやけど、こないだ飯田さん(智子)と執事のこと話してなかった?」


急に黙り込む灯里、何か考えている様子だ。

記憶になくて思いだそうとしているのか?


眉間にシワがよっている。


もしかして、執事とかそういったコンテンツは嫌いなのか?


確かに執事やメイドなどの人気コンテンツは、その人気の反面アンチも多い。


有り体に言えば偏見なのだ。


確かに安直な執事やメイドの作品も多いのは事実だ。

しかしこの、『戦う執事シリーズ』は違う。


例えばこのシーン(コピペ)


『パトリック…命令だ、お前だけでも生き延びろ…』


今にも息が絶えそうなアレキサンダーをパトリックの腕が優しく支える。


『アレキサンダー様なくして生きることなどできません。』


冷静さを努めるパトリック、だが心情は冷静ではないことが手の震えからも伝わってくる。


『お前は本当に使えない執事だな…最後まで言うことを聞かないなんて…』


悪態をつくものの、その穏やかな表情はパトリックをただの家来以上に信頼していること、命の灯火が今、消えようとしていることを物語っていた。


『あぁ、主の体が冷えきっていく…せめてこの身で主の体を暖めねば…』


半裸の執事と抱き合う美少年アレキサンダー…





幼き頃、このシーンを見て涙が止まらなかった。


主従を超越した熱い信頼関係、いや、信頼すらも超越して魂が結び付いていると言っても良い。


ここまで胸が熱くなるアニメはそうそうない。


しかし灯里はリア充。

ろくに知りもせず、


「男同士が抱き合うとか気持ち悪くない?」


とか言い出しかねない。


違うんだよ、決してそんなやましい気持ちで2人は抱き合っていたわけじゃないんだよ!

信頼関係の表れなんだよ!


しかし見ていないなら無理もない、しつこく聞いたことで嫌悪感も感じているかもしれない。


「な、何か怒ってる?」


「別にっ!」


やっぱり怒っている!

執事とか好きって思われるのが嫌なんだ!

とにかくこの話題は終わった方が良いか。


「い、いや、別に好きじゃないなら良いんだけど」


「好きだったら悪いの!?」


そんなこと言ってないのに!


「えぇ?す、好きなの?」


結局どっちなんだ?


「好きなものを否定する権利は、誰にもない!!」


ひえぇ、凄い剣幕だ、ヤバい…


「す、すみませんでした…」


思わず謝ってしまうのであった。



~fin~



おまけ


この後、誤解が解けてペアチケットを無事プレゼントできた。


「あ、あんたと行くの?」


ふふふ、今日の俺はいつもと違うんだぜ。もうデリカシーないとは言わせないぜ。


「飯田さん(智子)と行ってきなよ!水入らずでさ。」


「あ、ありがとう」


喜んでくれたようでよかった。

今日の俺はデキる男だぜ。


ご愛読ありがとうございます!

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