制服狩り編6 日常において必殺技を使う場面などそうそうないが備えあれば憂いなしでもある
いつもならもっとオロオロしていただろうし、自分がどうこうできる場面でもなかった。
こんなときは大体、灯里がハチャメチャながらも解決してくれていた。
だけど今回ばかりはそうはいかなそうだ。
…やるしかない。
状況はよく飲み込めないが、目が据わってる人達が沢山と、変態みたいな格好の女が1人。
灯里がここまでやられてしまう可能性として考えられるのは、この大人数を相手にしてエネルギー切れを起こしたってところだろうか。
お金持ちそうなおっさんや、気品のありそうなおばさん達だが、あの目付きをみるときっとまともではないのだろう。
胸の奥に熱いものを感じる。
呼吸が荒くなるのを感じる。
これは恐怖ではない。
これは…怒りだ。
気がついたら叫んでいた。
大勢で女の子1人をいたぶって楽しいのか、外道ども!
1人残らずぶん殴ってやる!
しかし、おじさんおばさん若者その他は意外にも『え?』と呆気にとられた反応であった。
「そのコ、ヤッたの私なんだけど?」
そう声をかけてきたのは先程の変態女だった。
え?
そうなの?
女の子ひとり?
・
・
・
今度は顔が熱くなった。
そんな様子を見てか、変態女が口を開く。
「幸せそうなカップルとか、サイッテーにムカつくんだよねぇ~」
そう言うと、手のひらから10センチほどの鋭利な爪を数本出し、こちらへ飛ばしてくる。
吹き矢のように飛んでくる爪を片手で無造作に弾き、言ってやった。
『カップルではない!!』
と。
「そこじゃねーだろ!!」
先程まで立ち上がれそうもなかったはずの灯里に頭をなぐられた。
「私を無視してイチャイチャは…」
槍のように細長い爪を具現化する。
「死ねニャ」
ふざけた語尾とは裏腹に、今までニヤニヤしていた顔が消え去り、冷酷な顔で槍を投げつけてくる。
が、それもまたガシッ、と掴んで止める。
イチャイチャなどしていない!
そう主張すると、
「そこはいいから気をつけて!」
と、またも灯里に怒られる。
「そいつも、能力者だから…」
真面目な顔に戻った灯里がこちらに聞こえるくらいの大きさで呟く。
なるほど、そう言えば先程から何か具現化しては投げつけてきている。
「それと、あいつ不死身。痛覚飛んでるのか知らないけど、ダメージも受けないみたい」
不死身、ね…。
何故だろう、絶望的な情報なのだろうけど、不思議と恐怖がない。
そして、灯里も気付いているようだ。
多分、あいつには負けない。
「ぶち殺すにゃ!!」
伸びる爪を足から出し、こちらへと飛び込んでくる。
が、見える。
飛び込んだ勢いでベアクローで顔を突き刺そうとするが、そのまま腕を掴み止める。
灯里も察したように呟く。
「完全に見切っている…」
思えばこの数ヶ月、特訓と言う名の必殺技研究をする中で灯里と組手をすることも少なくなかった。
スピードならば灯里の方が圧倒的に速い。
また、そのスピードに慣れていたお陰で自分自身の見る力も大幅に上がっていたようだ。
同じ能力を持っていても同じ使い方ができるとは限らない。
能力を蒸気機関のように爆発させて加速させる発想はこちらのオリジナルだ。
あの女にはどうやって灯里があの速度を出しているかも分からないだろう。
掴まれた腕を無理矢理振りほどいて、ベアクローでの攻撃を繰り返してくるが、全てかわす。
振り下ろしきった腕を再び掴む。
無駄だから降参しろ、と伝えるもまたしても腕を振り切られる。
…あれ?
「おまえ、力弱いにゃ」
窮地は再び訪れた。





