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サプライズする時は相手に気付かれているくらいの方が良い結果になったりする

翌日、灯里は放心したように登校し、呆然としながら授業を受け、授業が終わってもボケーっとしていた。

智子が声をかけるが、何を話しかけても


「あー、うん」


しか言わない。

負の感情が不完全に具現化し、ドロドロと汗のように流れ出していたため、多少強引に腕を引っ張ろうとしてもヌルヌルと滑ってしまう。


「あーちゃん、なんかヌルヌルしてるんだけど…」


智子は何とも言えない顔をして言うも、上の空で


「あー、うん」


と返すだけであった。


「大丈夫かいなこりゃ…」


と、心配する智子をよそに、不意に灯里のスマホが鳴り響いた。


「あーちゃん、鳴ってるよー」


呆然としている灯里に代わって取ってあげた方がいいのかな?とカバンから取り出して机の上に置くと、発信者の名前が表示されている。


「神楽坂 颯士」


ハッと意識を取り戻したかのように灯里は電話を取ると、2、3言話したら


「ごめん、行ってくる!」


と、すぐに消えていってしまった。


「分かりやすいなぁ、あーちゃんは。これはまた今度でいっか。」


と、智子はリボンのついた紙袋をカバンにしまった。



久しぶりの美術室。久しぶりの二人だけの時間に胸を踊らせながらも、何故しばらく休みにしたのか理由を知りたかった。

ちょっとだけ頬を膨らせながら灯里は颯士に聞いてみる。

あくまで、気にはしていないがなんとなく問うスタンスで。


「そういえば休みの間、なにしてたの?」


美人の人妻の家で。と、付け足す勇気はなかった。


「いや、ちょっと知り合いのところに通っててさ」


と、颯士は平然と返した。


「し、知り合いってお、おんな?」


動揺を隠しきれずに聞き返すが、


「まぁ女ではあるけど」


『あるけど』なんなんだ!はっきり言えない関係なのか!?と、そわそわイライラしてきたが、なんとかグッと堪えて追撃する。


「か、か、彼女とか、だったりして~?」


明らかに灯里の態度がおかしい、さては何か勘違いしてるな、と颯士は返した。


「親戚の家で絵画を教えるバイトしてただけで何もないです、特に不埒なこともなければイベントもなく淡々と教えて帰っていました、はい!」


この手の勘違いは早々に説明するのが一番、と言わんばかりに捲し立てた颯士は間違ってはいないが、情緒もセオリーもなく説明したせいで


「何し、え?あ、そ、そう」


と、変な風に会話が終わってしまったのであった。


しかしそこで灯里は気付いた。

すっかり忘れていたけど、今日は灯里の誕生日だったのである。

心中穏やかじゃなかったせいで意識もしていなかった。


きっとこの日のためにサプライズでプレゼントを用意してくれていたんだ、いつもあまり興味なさそうなのにやるじゃん!と灯里の心にパァァァ、と光が射した。


「それで、これなんだけど」


ガサゴソと紙袋から何か取り出そうとする。

サイズ的に服か何かかな?と、ワクワクする灯里の期待に応えるように、どことなく誇らしげに颯士は『ソレ』を出した。


「じゃーん!格闘用プロテクター!スリムな作りなのに結構な衝撃にも耐えられる作り!カッコいい黒塗りのボディ!ずっと欲しかったんだ!!結構高かったから苦労したぜ!!」


ありがとう、を言おうとした灯里はピタッと固まった。『欲しかった?』


誰が?颯士が?



自分の欲しいものを買っただけじゃねーか!!


スッ…と、何かが冷めるのを感じた。


無言で颯士の手からプロテクターを奪い、颯士に装着してあげる。


「いやぁ、どーもどーも!」


自慢のプロテクターをつけてもらい、まんざらでもなさそうな颯士に言い放った。


ガラガラと窓を開け放ち、壊さないように準備を整えて。




どのくらいまで耐えられるか試してみようか




今日一番にこやかな笑顔を作り、灯里は渾身の白龍を撃ち放っていた。


窓から白龍と共に飛んでいき、颯士は星となった。


「全く、デリカシーないヤツ。」


そうため息をつく灯里の足元に転がる紙袋には、レディースサイズのプロテクターが入っていたことを知るのはもう少し後のことだったそうな。




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