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自分が相手を求めているくらい相手も自分を求めているのが普通とは限らない

「ちょっとしばらく特訓は休みにしよう」


そんなことを颯士が言い出したのはつい先日のことである。


いつもは目を輝かせて新しいアイデアを持ってきたり、未だ能力への興味は尽きないと言わんばかりに発動までの時間を計ってみたり、組手をして力を試そうとか言ってみたり、色々な物を出させたりするのに、そんな颯士が特訓の休みを申し出るなんて。


雪でも降るんじゃなかろかい


いやまぁ、どうせすぐに撤回してくるだろう。


なんだかんだで颯士には私が必要なはず。


そうタカをくくっていたのだが待てど暮らせど颯士はこない。


かれこれ3日、たったの3日、されど3日。


「あーちゃん、どうしたの?機嫌悪いの?」


親友の智子が怪訝そうな顔で覗き込んでくるが、何でもない、とだけ返す。


「ホントにホント?嘘ついてない??」


心配そうに智子が続けるので、心配させてしまったかと笑顔を作る。

大丈夫大丈夫、と智子の頭を撫でると猫のように喜んでいた。


それにしても颯士のやつ、せめて理由を言いなさいよ。能力に興味なくなったのかな?にしても、能力だけが目的だったのか。私自身はどうとも思ってないのか。


なんか


むかつく…


「いたいいたい!あーちゃん、いたい!」


智子の訴えに思わず自分の手に力が入っていることに気付く。

ごめんごめん、と謝りながらも、もやもやした気持ちは残る。

そもそも何でアイツのことでこんなに悩まないといけないのか。まるで好きみたいじゃないか、冗談じゃない。

あっちから来るまで絶対声はかけないから。


そんなことを思っていた日から、はや一週間。



ぜんっぜん連絡こない…



このままじゃモヤモヤするだけだ…



こうなったら


…尾行しかない。



そうして放課後。颯士尾行大作戦は始まった。


あんな鈍感男、尾行されているのにも気付かれないだろう。余裕だわ、と正門で待ち伏せしていたものの、あっと言う間に颯士は走り去って行ってしまった。


自転車で。


いつもは徒歩通学じゃない、なんで自転車なのよ!


見つからないように物陰から物陰へ、ブーストダッシュを繰り返し、なんとか尾行するものの、なかなか目的が見えない。


家とは違う方向へグイグイ進んで行く颯士、あんなに急ぐ理由は何なのか…

まさか、女…!?




『私の身体が最も美しいうちに形に残しておきたいの…私を描きなさい。』


資産家の令嬢が颯士に命じる。


『はい、お嬢様』


颯士が筆を動かすも、令嬢はその絵を見て苦言を呈する。


『どこを見ているの?こんなのが私のわけないでしょう!もっとちゃんと見なさい』


おもむろに服を脱ぎ始める令嬢。

思わず目を背ける颯士の顔をそっと両手で包みこみ、


『ちゃんと、見て、触って感じて』


と顔を向けさせる。


そうして二人は求めあって…




ないないない、そんなことないない!

あんなデリカシーなし男に限ってそんなことはない!


だが颯士が自転車を停めたのは、それはそれは大きな豪邸じゃったそうな。


脳内に昔話よろしくナレーションが流れた。まさか令嬢と…?


インターホンを押す颯士、重厚そうなドアが開く。


颯士を出迎えたのは



美人の女性(人妻っぽい)であった。







待てど暮らせど人妻の家から出てこない颯士に痺れを切らし、ついに強行手段を思い付く。


もし、人妻とあんなことやこんなことをしていたとしたら…


確かめずにはいられない!

こんな時にこそ、能力を有効利用をせねばと、集中してイメージする。

えーっと、どんな服装だったか…

色をつけられないのが難点だけど、作業服風にしたら誤魔化せるかな?

あとはちょっとした小物でも作って詰めておけば…



十数分の試行錯誤の末、準備が及第点に達した、と思う。


意を決してインターホンを鳴らす。


「ちゃーっす!白猫急便です!」



真っ白な段ボール、制服の上から着込んだせいでごわごわした真っ白な作業服、宅配便業者に見えなくも、ない…


間もなくして、先程の人妻(仮)が出てくる。


「あら、誰からかしら?」


伝票もなく明らかに怪しい荷物に、何の疑問も挟まないこのご婦人はもしかしたら疑うことを知らない良い人なのでは?

なんて気持ちも多少は芽生えるが、いかんせん高校生をたらしこむ人妻(仮)だ、安易に騙されてはいけない。


よく観察するも、息が乱れた様子も衣服の乱れもない。シャワー浴びた様子もない。


うーん、もしかして何もないのか?

では、何故この家に?


ますます謎は深まるばかりだが、とりあえず人妻と危ない関係ってわけじゃないのかもしれない。


若干安心をしつつも、家を出てくることをひたすら待つことにした。


さらに待つこと2時間。


日も傾いてきた頃に、ようやく颯士が家から出てきた。


結構な長時間いたもんだ、なんて思っていると奥からひょっこり女の影が見える。


「じゃあ、またよろしくね~!!」


中学生くらいだろうか?

ちょっとお洒落な雰囲気の女の子が玄関から手を振っているではないか!


人妻ではなく、うら若きJC狙いだったのか…!


この変態!!


咄嗟に猫の置物を具現化し、物陰から颯士に向かって投げつけた。


放物線を描いた猫は、思いの外正確に颯士の頭にぶつかった。


「いてっ!なんだ?」


颯士が周りをキョロキョロしているが、あんなヤツもう知らない!


夕日が少し滲んで見える。

家に帰って魔道執事でも見よう。

三次元なんかすぐ裏切るんだから。



颯士が猫の置物を見つけている可能性など考えもせず、走って家に帰るのだった。


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