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ヒーローの資格は武器や見た目でなく心意気にある

執事シリーズも今年で12作目。

今作の「魔道執事」はこれまでの執事シリーズのテイストをガラッと変えて魔力や呪術で戦う鬼作である。

公開前は批判的な意見も多かったが、実際に始まってみると歴代シリーズの中でも屈指の名作で、新規ファンの獲得にも成功している。

今日は「劇場版 魔道執事~深淵の忠誠心~」の公開日である。

前作の「ワイルド執事」も登場するクロスオーバー作品で、灯里と智子がどれほど心待ちにしていたかは皆さんの想像にも難くないことだろう。


そんなわけで複合施設「A-ONプラザ」に2人は来ていた。

ここならば、映画を見た後、なんとかフラペチーノでも啜りながら映画の感想を熱く語り合えるってものである。


完璧な計画に我ながら惚れ惚れする。私が男なら智子は惚れていること間違いなしだな、なんて思ってニヤニヤしていたら


「何にやにやしてるの~?」


と、智子が覗き込んできた。

か、可愛い。私が男なら惚れていること間違いない!

中学の頃は芋っぽさが抜けない感じだったのになぁ、ダイヤの原石か?


なんてことを思いながらも公開時間が迫ってきたので映画館へと入った。


結果から言うと、「劇場版 魔道執事~深淵の忠誠心~」は最高であった。

いや、最高と言う言葉だけで表しきれないものがあった。


ワイルド執事の先輩執事としての見せ場を作り、前作のファンの気持ちも大事にしつつも魔道執事の心の成長を描き、しっかりと後輩へとバトンが渡されたことを感じる作品であった。

笑いあり、涙ありのこの感動のストーリー、これは1時間や2時間では感想を語り尽くせないぞ…


と、意気込んでいたが、映画の間ずっと我慢していたからかお花を摘みたくなってきた。


「ちょっとお花を摘んできますことよ」


と、ワイルド執事のご主人、マーガレットを意識してお嬢様言葉で便所に向かった。

そそくさと用を足して帰ってくると、我が主、智子が何やら男達と話している。おいおい、親戚のおにーちゃん達にでも会ったんかな?と思っていたら

智子の腕を掴み無理矢理に引っ張っている。


…質の悪いナンパか?


すぐ止めに入ってぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、智子はまだ余裕でチンピラ達をぶっ飛ばせる力があることは知らない。

まして顔を覚えられてまた復讐に来られたりしたら智子が責任を感じてしまう。

何か手は…


少しだけ待ってて、と心のなかで呟きつつ、トイレに逆戻りして個室に入った。

そしてそのまま、服を脱いで下着姿になった。



智子を捕まえたのは、智子に告白した

上級生だった。


「いいじゃん、一度くらい付き合ってくれたら絶対好きにさせる自信あるからさぁ」


と、腕を掴みながら言う。とても好きになってもらいたい奴がすることではない。


「嫌です、やめてください!」


と、気丈に振る舞うも、男4人に取り囲まれてはなす術もない。


「大丈夫だよ、マサさんと付き合うとマジサイコーだから!」


取り巻きの頭からっぽで夢詰め込んでそうなヤンキー崩れもニヤニヤしながら言う。


「俺らにも楽しませてくださいよ」


と、いやらしい笑みを小判鮫のような男が浮かべたところでさらに続く


「ほう、どう楽しむのか私にも教えて貰いたいものだな。」


「そう焦るな…最初は俺から…え?」


途中で聞きなれない声がして後ろを振り返ったマサさんとやらは、すでに取り巻きの一人がのされていることに気付いた。


「な、何者だ!」


智子は、マサさんが狼狽えながら言うセリフに「完全に悪役のセリフだ~」とか思いつつも、聞きなれない、いや、聞きなれた声の主を見た。


「私の名は、白魔道執事!我が主、智子様を返して貰う!」


そこには白い燕尾服に白いマスクの「魔道執事」がいた。


白魔道執事は飛び上がって必殺技を繰り出す。


「魔道ファイアーフォーク!!」


魔道ファイアーフォークとは、魔道執事の必殺技の1つで、魔道の力で地獄の炎をまとったフォークを投げつける技である。大体、演出的に敵が避けたところにある机や地面にカカカッと刺さって炎の柱をあげる、いわば通常技である。


白魔道執事はどこからともなく取り出した炎に燃えるフォークを投げつけた!


と思いきやフォークっぽい形状のベチョベチョした何かを投げつけた。

マサさん、その他にベチョッと当たる。


「こんなのとろろ芋フォークじゃねーか!」


ヤンキー崩れがヤジを飛ばすが、


「うるさい」


と、白魔道チン撃で眠って貰った。


「なんだコイツ!ふざけた格好しやがって!」


と、飛びかかってくる最後の取り巻きには


「魔道聖水波!」


と、両手からべちょっとした水流を出した。


とろろ芋のような濁流に取り巻きが飲み込まれる。


智子は思った。とろろ芋波やんけ、と。

マサさんは思った。魔道なのに聖水って、と。


「貴様で最後だ!」


ノリノリで白魔道執事はマサさんに告げる。


「く、くそう…」


マサさんは苦し紛れに智子を捕らえて

人質作戦にでた。


「く、くるな、来たらコイツがどうなるかわからんぞ!」


「無駄な抵抗を…!」


そうセリフを決めるも、白魔道執事の仮面が、燕尾服が少しずつ煙になってきている。

マズい、能力の制限時間が近づいてきている。

時間稼ぎをさせるわけにはいかない…!


消えつつある仮面にいち早く気付いた智子は何かを察した。


「白魔道執事さん!私に構わず逃げて!」


そんなこと出来るわけがない。


「あなたを置いて逃げたら、生きていけません!」


だが少しずつ服も消えていく。ブラ紐がうっすらと透けてきているのを見て余計に智子は焦った。


「執事なら言うことを聞いて!!」


燕尾服の命の灯火が今、消えようとしている。よもや迷っている暇はない。


「主よ、私を信じて目を瞑っていてください。」


智子が言われた通りに目を閉じると白魔道執事はマサさんの方に駆け出した。


「こ、こいつがどうなってもいいのか!」


やけくそに叫び智子を盾にするマサさんだが


「どうにもならん!!」


と、白執事仮面は最高速で近づいてきたかと思うと、ふっと目の前から姿を消した。


ひらり、とぼろぼろの燕尾服だけが目の前に舞っている。


「え?」


対象を見失ったマサさんが呆気に取られていると、超高速ブーストで視界の外に移動していた白魔道執事、いや、下着姿の灯里が壁を蹴りロケットのように突っ込んできた。


「魔道クロススラッシュ!!!」


マサさんが灯里の姿を確認するより先に、両腕を交差してきりつける動作の一撃でマサさんを吹っ飛ばした。


シュタッ!


羽ばたく鳥のようなポーズで地上に降り立った灯里の背後でマサさんは爆発…いや、べちゃっと壁に叩きつけられた。


「とろろ芋スラッシュやんけ…」


そのセリフを最後に、マサさんはガクッと力尽きた。


「我が主、そのままあと10秒だけ目を瞑っていてください。」


灯里はそう言うともう一度燕尾服を作り出そうとしたが、いかんせんイメージするための時間が足りない。

やむなしか…


「我が主よ、またお会いしましょう。いつでもあなたを見守っています。」


そう言い残すと灯里は下着姿のままトイレにかけていった。


下着姿で人の多そうな通りに入るのは

さすがに恥ずかしすぎる。


服をイメージしようとするもドロドロと液体が出るばかりなのでとりあえずドロドロを垂れ流して身に纏いながらトイレへと急ぐのであった。



その後、何食わぬ顔でトイレで着替え直し、智子を迎えに行った。


「おーい、ともこー、どこいってんのー?」


駆け寄ってきた智子は灯里の腕に抱きついてきた。

何か囁いているけどよく聞こえない。

怖かったのかな?と思いながらも


「なに~?甘えん坊~?とりあえずカフェに行こ!」


と、手を繋ぎ直した。


「なんとかフラペチーノでも飲んで気分直ししよ!」


そう言いながら智子は灯里を引っ張った。


「ありがと、私の執事さん」


灯里の耳には届かない大きさで言ったのが智子の優しさだった。


友達と過ごす1日。今日も良い1日になりそうだ。

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