今時は学校のまわりに部外者がいるとそれだけで通報されたりする
恐怖のチン撃姫が誕生したことは、裏の界隈ではちょっとした話題となっていた。
男のメンツに泥を塗ったと騒ぐ者、放っておくべきだと恐怖する者、できれば自分もお願いしたいと言う者。
そして、力の存在に勘づき始める者も…
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非日常はいつも放課後に起こる。
今日も灯里と二人で帰ろうと校門を出たところで非日常はやってきた。
「チン撃姫ってのは、アンタかい?」
年の頃は25、26くらいと言ったところだろうか?
黒いYシャツをラフに着こなした、眼光に鈍い光が見えるクールガイがそこにはいた。
「チン撃ゆーな」
と、イヤそうな顔で返すも、件のチン撃事件のチン撃姫が灯里だと分かったこの男、只者ではなさそうだ。
チンピラ衆に顔は見られたが、写真などは撮られておらず、特定するには情報が少なすぎるはず。
まさか、灯里から発せられるエネルギーを感じ取ることができるのか!?
それなら納得がいく。
溢れだしたエネルギーが具現化したものが灯里のもつ能力。
人並み以上のエネルギーの持ち主だからこそ、もしエネルギーを感じる力があればすぐに見つかってしまうのではないか。
そうなるとこの男も「能力者」なのか?
灯里以外にも能力者がいるとしたら…
とにかく慎重に探りを入れねば。
などと考えていたら灯里が先手を打った。
「どうして私って分かったの?」
駆け引きなしにストレートに聞いちゃった!
「簡単なことだ…」
男はニヤリと笑うと得意そうに言った。
「この校門から出てくる女子全てに聞いて回っただけだ!」
「……」
…クールな外見からは想像がつかなかったが、もしかしてこの人、
凄くアホなのでは…?
よく見ると周りにヒソヒソしている女子生徒が複数いる。
「変態よ、変態」
「チンがどうとか言ってたわ…」
「変態」
「白痴」
「変態」
「吉村さんの知り合いかしら?」
…場所を変えよう、と提案すると、すんなりと受け入れてくれたので人気のない空き地へと移動した。
知り合いと思われないように別々に。
「それで、私に何の用なの?」
さすがの灯里も少し警戒しながら尋ねる。
「俺の後輩に大門って男がいてね…」
男はタバコに火をつけながら続けた。
「そいつは相当鍛えていてな、ヘヴィ級ボクサーのボディブローを腹に受けても顔色1つ変えないような奴なんだが、そいつが先日、女にやられたって言うじゃないか。」
タバコの煙を吐きながら間を置く。
灯里の額から一筋の汗が流れる。
恐らく大門とやらはあのタンクトップの大男だろう。
「どんなゴリラ女かと思いきや、細腕のねーちゃんときたものだ」
ギリッ…タバコを噛み締めると男は続けた。
「どんな汚い手を使った!?あいつが簡単にやられるわけがねぇ…!卑怯な手を使ったに決まっている!!」
今までのクールな態度とはうってかわって、怒りをあらわにした。
「ど、どんな手って…」
灯里は灯里で、ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら言葉を濁している。
クイクイと袖を引っ張ってくるのは代わりに言ってくれと言うことだろう。
あのー、と恐る恐る話に割り込む。
チン撃姫って名前から想像つくと思うのですが、と前置きをしてことの顛末を話すと、男は想像もしなかったかのような顔で
「な、なんて卑劣なことを…」
と怒りに震えていた。
名前から分かってなかったのか…
「ちょっと脚が太いだけの細腕の女子がどうやったのかと思いきや、こいつは許せねぇな…」
脚のさわりに灯里がムッとしたのを見逃さなかった。戦いが避けられないのは気配で察した。
まさに一触即発状態である。
タバコを携帯灰皿に入れながら
「力ずくでも詫び入れて貰うぜ」
そう言うと男は携帯灰皿をポケットにしまった。意外とマナーはしっかりしているな、この人…
灯里はと言うと既に戦闘体制で、よく見ると足元から煙のようなものがゆらゆらと溢れている。イメージを作り上げているのであろう。
「脚が太くて悪かったわね!」
灯里のイメージ力が爆発した。