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プラハのトラムで  作者: ピタピタ子
7/15

続き

プラハに戻ると、ヴァーツラフ広場で一人でいた。半年間の休止の発表からもう1ヶ月がたった。一ヶ月も経てば誰も俺のことを話題にしないだろう。そう思っていた。

「もしかして、ケヴィン・デ・スメットさんですか?」

一人の20代の男性が声をかける。

「そうですが、何かようですか?」

「僕、写真家やってるんです。あなたの作品、すごい好きなので、記念に写真撮りたいと思って。」

「良いですよ。」

俺はそのまま要求を受け入れた。ただカメラの前に棒立ちしていた。

「せっかくなら、何か持ってください。」

俺は適当にトラムで拾った小説の原稿を裏返して写真に写った。

「それは新作の原稿ですか?」

「違う。昔書いた小説の原稿だ。ただもうメモ用紙として使ってるから見せることは出来ない。」

適当に写真家の男に嘘をついた。

「人を撮る写真家なのか?」

「違います。普段は観光スポットを撮る写真家をしてます。両親に反対されるし、中々稼ぎとかは良くないですけどね。」

「本当に写真で生きてきたいなら、あまりお金にならなくても、何度でも失敗しても良い。一番は自分の体や心が無事であるかどうかだ。身体が無事ならいつでもやりたいことで生きてける。悩んでても時は止まらないからな。」

青年に適当なアドバイスをした。

「そうですね。自分を信じて前に進もうと思います。最後にもう一つ撮らせてください。」

写真を撮ってもらったら、青年は笑いながら手を振っていなくなった。

ホスポダでビールを飲みながら、アイデアを練っていた。今度の小説の主人公はあの青年くらいが良いだろうか?ただ売れない写真家のサクセスストーリーは書くつもりはない。

「カレル、元気にしてた?」

「マリー!活動休止中だけど、何とか生きてるよ。」

「何その答え。まあお兄ちゃんが元気そうでなによりね。」

今度は妹とたまたま異国の地で遭遇した。旦那と12歳の娘と10歳の息子、6歳の娘を連れていた。

「おじさん、久しぶり。久々に遊ぼうよ。」

6歳の姪っ子をおんぶした。

「ちょっと大きくなったな。」

姪のクリスティーヌは笑っていた。見ないうちに身長が伸びていた。スケジュールが多くて妹夫婦ともあまり会えてなかった。

「それにしてもこんな所で再開するなんてね。」

「本当ね。」

「家族で旅行か。」

「そうよ。プラハなんて初めて行くわ。どこも見ごたえあるわね。子供には可愛い雑貨を買ったわ。最近小説はどうなの?スランプなんでしょ?」

「そうだな。アイデアは思いつくけど、何故か色々と納得いかないんだ。そんな感じだ。」

「アイデアがあるならとにかく書けば良いのに。変なの。」

甥と姪たちがマリーのもとに走った。

「これからプラハ城散策するの。今日は私達と一緒にご飯食べない?」

「今日は用事があるんだ。行けないな。」

妹は旦那と子供達と一緒に行ってしまった。それにしても今日は人に声をかけられる。その後もチェコ人の老夫婦から分からないチェコ語で道を聞かれたりした。

次の日、目を覚ますと、ハンネはもう出かけていた。彼女の温かさがベッドに残る。俺はシャワーを浴びて、着替えて外に出た。いつもと同じ時間のトラムに乗った。また奥の席が空いていた。座席を見ると、前と同じように小説の原稿が数枚残されていた。最初の一文を見ると、前回の続きだと分かった。俺は続きが楽しみで仕方なかったが、それをカバンにしまった。

「私の原稿知りませんか?」

一人の女性が尋ねる。

「これもしかしてあなたのですか?」

女性は原稿を凝視する。

「何これ?全然違うじゃないの。私が探してるのはスピーチの原稿なのに。」

女性は原稿をすぐに返した。

「それならどこにもないな。」

すぐに彼女はいなくなった。その後、カルロヴィ・ヴァリで半日過ごして、別荘に戻った。

小説のアイデアをメモ書きしてる時、ちょうどハンネが帰ってきた。

「ただいま。」

彼女はすぐに部屋着に着替えた。

「今日は妹に偶然あった。」

「どうだった?」

「すごい楽しそうだった。あいつの子供も大きくなってたよ。」

「せっかくなら一緒に食事でもしたかったわ。」

ビールを飲みながら彼女は話した。そして彼女は勢いよくビールをこぼした。

「おい、何やってんだよ。」

床を拭き掃除した。

「ねえ、またトラムで原稿拾ったんでしょ?」

「そうだよ。何で分かったんだ?」

「あなたの顔見れば分かるわよ。今にも小説を読みたい感じじゃん。」

「隠し事なんて出来ないな。何も隠すようなことはないけど。君だって楽しみにしてたんじゃないか。」

「待ってたわ。読んでくれる?それとも今日は私が読もうか?」

「今回は君が読んでくれ。」

「分かったわ。「窓から日がさして目が覚める。シュテファンを叩き起こして、一緒に外で走った。

「まだまだ遅いな。」

「勝てるわけないよ。まだ9歳なんだから。」

シュテファンは俺を見て怒る。

「今日は俺がイレナに朝ご飯持ってくるから。部屋で大人しくしてろよ。」

家に戻るとエヴァが朝ご飯を用意してくれていた。テーブルにクロワッサンやスープなどが並ぶ。

「シュテファン、食いしん坊だからいつも多めに作るのよ。」

彼はイレナの所にご飯を持っていくためにエヴァの前では食いしん坊のふりをしている。俺は残された朝食をプレートにのせて、台車で運んだ。森に入り、あっという間に白い家についた。あたりは木々ばかりで、少し暗かった。鍵を開けて中に入った。

「待ちくたびれたわ。」

彼女は寂しそうな感じだった。

「君は料理は作らないのか?」

「ここにキッチンが無いから作ったことない。」

「作れないんだな?」

「作ったことないだけよ。」

「君はずっとここに座って生活してるのか?」

「そうじゃないわ。部屋中をひたすら歩き回ったり、本を読んでるよ。」

隠し扉から本を取り出す。

「この本よ。」

本を読むと見たことのない言語でずらりと書かれていた。何が書いてあるか、何一つ分からない。

「何だこの言葉。わけ分からないな。」

「私しか読めない言葉よ。私以外誰も読めない。ここにある本、全部私しか読めないわ。」

「内容はどんなもの?」

「言っても理解できるものじゃないわ。」

「教えてよ。そう言われると気になるんだ。」

「教えないわ。私だけの為の本なの。」

「その言葉は君が作ったのか?」

「会ったこともないけど、私のおばあちゃんが作ったのよ。ただの書き言葉だけどね。」

「会話では使わない言語?変だなそれ。話し言葉しか存在しない言葉なら分かるけど。発音しないのに読めるのか?」

俺は思わず呆れて、苦笑いをした。

「発音しないわけじゃない。頭の中で発音するの。口では発音しちゃ駄目なの。口で発音したら書き言葉としての価値が無くなるわ。」

「頭が可笑しくなりそうだな。」

一言吐いて俺はドアを激しく閉めて走ってエヴァの所に戻った。」」

「そこまでだ。俺が後の続きを読む。」

ハンネから原稿を取り、俺が朗読する番になった。

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