黒い家
俺はトイレから戻り再び原稿を手にとった。
「お待たせ、続き読むよ。「エヴァは黒い家のことについて話した。黒い家は白い教団から派生した黒い教団の聖地だ。1000年前、白い教団の相次ぐ汚職や児童虐待を訴える男グスタフがいた。罪を救済するかわりにお金を貰うことを白い教団は許していた。もちろんそれでお金儲けしているのに不満をあらわにする人達がいたが、酷い拷問や迫害を受けた。グスタフはある部屋で当時のエステルの祖先の女性に匿われていた。そこには何人かの抗議する人達が集まっていた。次第に規模は大きくなり、改革派の黒い教団も出来上がった。教会だけではなく、聖地の黒い家も出来上がった。数百年の間は街や国が荒廃する規模の宗教戦争が続いた。
「黒い教団も白い教団と対して変わらないの。同じ女神を信じているの。」
あれから一週間の間、イレナとは少しの時間だがお互い会っては愛し合っていた。何度も家の中で。
ある朝森を散策すると、また後ろの方に気配を感じた。
「誰だ?」
後ろに振り返ると、この前会った男が立っていた。
「いきなり無礼なやつだな。俺はラファエル。黒い家の近くにある街に住んでいるんだ。」
「そうなんだ。」
「お前、何ていうの?」
「カレルだ。」
「聞いたことない名前だな。とにかく黒い家は俺しか入れないから。あそこら辺をうろつくな。さもないと、お前を気を失うまで殴り続ける。」
ラファエルは血の気の多い男だった。俺は反対にそんなラファエルを冷たい目線を向けて見た。よく見るとアメジストの指輪をしていた。おそらくあの時木にかかっていたものと同じものだろう。
「俺用事あるから。君と話してる暇ないから。」
怒っているラファエルを置いて行った。
白い家に行って、イレナと話した。
「イレナ、この世で一番愛してる。」
「私も愛してる。」
お互いの声が家中に響き渡る。エヴァが窓からのぞいて俺達のことを見ていた。彼女は無表情だった。俺が彼女に気がつくといなくなってしまった。
エヴァの所に戻ると、エヴァは俺のことを無視した。
「どうしたんだ?もしかしてイレナと俺が一緒なのが嫌なのか?」
「さあ、どうかしらね。」
エヴァの日記を勝手に読むと幼少期のことが書かれていた。エヴァは白い教団の信者の父と黒い教団の母のもとに産まれた。家庭では宗教的な話もほとんどなかったので、エヴァは宗教に関心は特に無かった。ある日、白い教団の巡礼中にたまたま床に落ちていた白い教典を踏みつけて、逮捕されて、劣悪な監獄に入れられ生きを引き取った。白い教典を踏むことは女神とエステルの一族への冒涜で、それを破るとわざとじゃなくても犯罪者の扱いを受ける。それに対して母は抗議したが、一緒に逮捕された。母もすぐに行方が分からなくなった。それから彼女はずっと一人で、色んな引き取り先で虐待ばかり受けていた。それから白い教団と黒い教団への嫌悪感を示すようになった。特にイレナは白い教団のシンボルでもあるので嫌悪感が彼女を支配する。
「カレル、もう家から出て行って。あの胡散臭い女に触れたあんたは二度とこの家に入ってくるな。」
彼女は感情的になっていて、誰にも止められなかった。彼女は窓の2階から荷物を全て放り投げた。シュテファンが急いで俺のもとに来た。
「カレル、行かないで。」
彼は少し涙目になっていた。
「お前寂しいのか?あんまり弱音吐くんじゃないよ。それにこの街で住む場所探すからいつでも会えるから安心しろ。」
「弱音吐いちゃ駄目なの?誰だって突然家を出ていかれたら寂しくなるよ。」
シュテファンは純粋で、自分を取り繕うことをしなかった。
街は空き家だらけだが、どこも人が使っている痕跡が残っていて落ち着かない。森の中に一つの新居を見つけた。中はとても綺麗だった。しばらくそこに住むことにした。家具などはある程度そろっていた。家を出るとラファエルと遭遇した。
「ラファエル。その指輪どこで拾ったんだ?」
「木にかかってた。だから何なんだ?はめたらもう外れないものだけどな。」
「聞いただけ。」
やはりあの木にぶら下がっていたものだった。自分のつけている指輪のことは話さなかった。
「お前も指輪をしてるんだな。もう一つのエメラルドの指輪誰かに上げるつもりなのか?」
「ああ、お前じゃ到底かなわないとても美しい女性にね。このエメラルドの指輪は俺が渡す。」
ラファエルに指輪のありかを聞かれたが答えなかった。彼が暴れる前にその場を去った。家に帰ってイレナの本を読んだら、指輪のことが書かれていた。大樹にぶら下がっているエメラルドの指輪をエステル一族の女性にしたものは一生彼女のそばにいられると書かれていた。何故か指輪の章だけはスラスラと読めた。
あれから2週間後、白い家に行ったが誰もいなかった。
「イレナ、どこにいるんだ?」
呼んでも何も反応がない。部屋をくまなく探索すると隠し扉のようなものがかすかに開いていた。おそるおそる開くと暗闇に包まれたトンネルがそこにあった。何も見えないので、ランプを灯して、進んだ。トンネルには虫すらいなかった。本当に無の空間そのものだった。無の中をずっと歩く。だんだん何分歩いたか分からなくなった。まだまだ出口にたどり着けない。しばらく歩くと、扉が2つあった。一つの扉は鍵がかかっていて開かなかった。もう一つの扉をゆっくり開くと、辺り一層黒い家具などに囲まれた。壁も床も全て黒かった。そうだ。ここが黒い家なのだ。写真を見ると黒い服と黒仮面を身につけたイレナが写っていた。
「何でここに?」
イレナは白い教団と黒い教団の女神に近い存在、どちらの宗派にも重要視されていた。白い家と黒い家をつなぐトンネルを行ったり来たりしていた。イレナが白い家にいなかったのは外に出たわけではなく、トンネルで移動したからだ。鍵がかかっているところはイレナとその家族しか入れない所。そこで着替えをしていた。
部屋を探索すると、どこかの部屋から声が聞こえた。
「ラファエル、ラファエル。」
「イレナ。仮面を外してくれ。」
何故かラファエルとイレナの声が聞こえた。部屋をのぞくと、ラファエルとイレナが裸で抱き合っていた。イレナは凄い満足したかのような顔だった。俺は思わずドアを全開に開いた。
「イレナ、どういうことだ。嘘だろ。何でこんな男と抱き合っているんだ。」
俺は思わず怒鳴った。
「ラファエル、カレルがしつこかったの。仮面を無理矢理取ろうとしたり、私のことしつこくつきまとったり。無理矢理犯されたの。怖くて話せなかった。」
「カレル、うるせえよ。黙れ。ボコボコに殴られてのか?言っておくけど、毎日イレナはここで俺のこと求めてた。朝も昼も夜も。俺が一番体が男らしくて魅力的だって言ってたぜ。」
俺はラファエルに殴りかかり、取っ組み合いになった。
「ふざけんな。お前ら二人で騙してたのかよ。」
「一人で被害者ぶるな。お前はイレナに手を出していたんだろ。俺はイレナと半年前から付き合ってる。これ以上イレナに手を出したらお前をぶっ飛ばす。」
「これ以上喋るな。」
「負けた男ほどよく怒鳴るな。これ以上イレナに近づいたらお前を殺す。分かったか?」
部屋は不穏な空気が広がった。俺は激怒して、ドアを思い切り閉め。家の窓をハンマーで壊しまくった。そしてひたすらランプも持たず暗闇のトンネルを走った。何もなく、深い暗闇の中でただ一人眠ってしまった。」」