連続
それからもトラムに乗っては原稿の続きを拾って、妻と夜に小説を共有する日々だった。
道を歩いてると目の前に不機嫌な男性が声をかける。
「あの時、よくもやってくれたな。お前のせいで酷い目にあったんだぞ。」
男はいきなり顔面を殴ってきた。
「あの、なんのことですか?」
「とぼけるな、あの時俺が無賃乗車で罰金払わされてそれを楽しそうにトラム越しでお前が見てただろ。」
「あの時のか。どうでも良すぎて忘れてた。無賃乗車したのは君なんだし、自業自得でしょ。何一つ悪いことしてないけどな。」
「何だと。」
男は怒って、殴りかかろうとした。それに対してやり返そうとしたが、彼も俺も通行人にとめられた。幸い何一つ傷は無かった。
別荘に戻ると、ハンネは嬉しそな感じだった。
「今日は何の日か分かる?」
「結婚記念日だろ。忘れるわけないよ。」
嬉しそうなハンネを横に高級レストランに連れて行った。ドレスの彼女も美しい。彼女の足がキレイだ。思わず彼女にキスをした。
「相変わらずスーツが似合うわね。若い時から変わってないわ。」
席につくとシャンパンがグラスにつがれる。グラスに彼女の姿が映る。
「新婚旅行、ヴェネチアだったわよね。確かカメラを失くしてずっと探すはめになったわよね。あの時は大変だったわ。」
「我ながら凡ミスをしたな。結局ホテルの金庫に保管してただけだったんだよな。」
新婚旅行の時の写真を目の前に出した。指輪が一瞬光った。
「写真とった後、スリに少しお金とられたんだよな。」
「お互い自分達の世界でうっとりしてたもんね。」
レストランをあとにすると、妹から電話が来た。
「知らない人から、お兄ちゃんらしき人が通行人を殴ろうとしてる動画が来たんだけど?この人と知り合い?」
「一部を切り抜いただけで向こうから先に殴ってきたんだよ。そいつのことは知らないけど、そいつはそんなのお前に送ってどうしたいんだ?」
「分からないわ。家族の皆に同じのが来てるよ。皆誤解してるわ。」
その後親族から立て続けに電話が来て何とか誤解が解けたが、誰が何のためにあんなことをしたのか分からなかった。
次の日また朝起きると、ハンネはいなかった。チェコでヴァカンスを過ごしてからいつものことだと思い、気にすることは無くなった。またいつものようにトラムに乗ると、奥の席に高齢の女性が座っていた。ちょうど彼女は原稿の上に座っていた。彼女はずっと窓の方を見ていた。
「あの、原稿の上に座ってますよ。」
しかし彼女はチェコ語しか分からない為、何を行ってるのか分かっていなかった。チェコ語で何かを話しているが何なのか分からなかった。
「あのどいてくれませんか?」
びくともしないので無理矢理、女性を持ち上げて原稿を回収した。女性は俺の行動に対して怒っていたが、無視して違う席に座った。
「また会いましたね。よくこの列車使うんですか?」
「ああ、そうだけど。どこかで会いました?」
「この前、トラムで口論してる時に会いましたよ。」
口論のあと話した青年だった。
「君、名前は?」
「ハンスです。ドイツから来ました。」
「どうしてここに?」
「音楽大学に留学してるんです。」
「そうか。その世界にいる割には毒されてないな。無駄にプライド高くて、相手を蹴落として上に立とうとする奴が多いイメージだな。」
「そういう人もいますけど、自分の相手ではないですね。いない存在、もしくはこの世に存在すべきじゃない存在だと思って適当に扱ってます。」
青年からはどこか心に少し狂気じみたものを感じた。これ以上、個人的なことは聞かないようにした。
「俺はケヴィン・デ・スメットだ。」
「小説家ですよね?ちょうど読んでる小説の作者じゃん。こんな所で出会えるなんて思ってもいなかった。」
「時間ないけど、小説読んでくれてんだ。ありがとう。」
しばらく、青年と小説の内容について話した。しばらくして青年と別れた。
別荘に戻るとハンネがもう戻っていた。
「いつも俺より帰りがはやいんだな。」
「そう思うことが多いだけよ。」
相変わらず、カバンから小説を取り出した。何回も読んでいるせいか小説の作者を探すことを忘れかけていた。ハンネも作者のことを話さなくなった。
「今日も続き読むよ。「ある日、白い家に行こうとした。仮面が一つ落ちていた。やっぱり彼女は外に出ている。何であんな嘘をついたのか、聞き出したい。白い家を調べても何もない、気がつくと黒い家の目の前にいた。また後ろに気配を感じた。
「ここで何してる?」
同い年くらいの男が俺に話しかける。
「黒い家の中に行こうと思ったんだ。」
「今すぐ消えろ。」
「はい?」
「消えろって言ってんだよ。」
そう言われて俺は怒ってその場を去った。振り返ると窓の方に人影があった。窓がぼやけていてよく見えなかった。
夕方になって白い家に戻った。イレナがいたので外に連れ出した。
「今日は夜景がキレイな所に連れて行ってやる。」
彼女は夜外出したこと無かったので緊張していた。夜空を見ると無数の星が夜空を照らしていた。
「これ開けてみて。」
「いいの?」
開けるとエメラルドの指輪が入っていた。
「もしかして、私と結婚したいの?」
「もちろん。」
「考えさせて。」
「どうしてなんだ?俺のこと避けているのか?」 「まずは彼氏彼女の関係がいいの。結婚したいとお互いが思った時にもう一度渡して欲しいわ。」
俺はそんな彼女にガッカリした。こんなに良いところまでいったのに。答えをうやむやにされるのがスッキリしなかった。
しばらくすると草むらで横たわって、お互いキスをしあいながら抱き合った。仮面をつけているのにキスが心地良かった。激しい息が止まらなかった。イレナは抱き合うことすらはじめての体験だった。何もかも初めてだった。
「ありがとう。楽しかった。」
家に帰ってイレナの本の続きを解読した。主にイレナの亡き祖母の記録が描かれていた。女神と本を通して会話していた。そんなこともあり、解読するのに難しい本だ。
エヴァに黒い家のことを話した。
「黒い家にも行ったの?本当なの?」
「中には入ってないよ。どうやって行ったかも思い出せない。しばらく歩いて気がついたらいたんだよ。」
「黒い家にも行かないで。」
「何で?行ったことあるの?」
「行ったことないけど、なんとなく嫌な予感がするの。」
エヴァは心配すぎだ。彼女の言うことは流した。」ごめん、トイレに行ってくる。」
トイレに戻ると、ハンネが待ち遠しそうにしていた。
「お待たせ。急にトイレ行きたくなったもんで。」
いきなり停電が起きた。
 




