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⑹『亡き資料からの、船の水没』
⑹『亡き資料からの、船の水没』
㈠
俺に心眼があるとして、その先に見えるものが、何であろうとも、俺は俺でしかあるまい。俺は俺を超越できないばかりか、変貌することもできない。しかし、波の波長が、その状態を維持しろ、と言っている様な気がして、船は進んだ。
㈡
勿論、資料がない訳だから、自分の力量以外の場所に、行くことが不可能なことくらいは、知っているのだが、それでも、心底、為体な俺は、自分の脳内で、言葉の資料を作るのである。いざ、行く道へ、といった、極平凡な、具合で、である。
㈢
身体を使いながら、船を漕ぐのは、誰に教わったことでもないとして、右利きの俺は、しかし、左利きであるかのような錯覚で、船を漕ぐ。脳内資料によって、見定めた水平線が消えるまで、俺は、船を水没させずに、どこまで行けるだろうか。