第八話 神託
衣食住。
今の悠希の生活環境には食と住はある。しかし、衣の部分がなかった。
悠希は今更ながらに痛感する。
飲食はできるし、住居もある。
ただし、それ以外がお粗末だった。
悠希は肌着をタオル代わりにして体を拭き、その肌着は干していた。
この住居は霧に包まれているため、太陽光で干すことができない。
現代日本で不自由なく暮らしていた悠希だが、早急に改善しなければストレスが振り切れてしまい、邪神との闘いで集中できず呆気なく死ぬかもしれない。
そんな未来などあってはならない。
悠希は気持ちを新たに、神書と向き合う。
神託――神からの依頼――を遂行しなければならない。
どんな依頼なのか、彼はまず内容を知る必要があった。
神書の一ページ目、二ページ目を開く。
二ページ目の神託を選択すると、例によってそのページへ自動的にめくられていった。
「なるほど、神託には難易度があるんだな」
左側のページに星型の記号が一つから四つまで、右側のページに星五つから八つまで記号のみ描かれていた。
「星一つから八つまで、か。最高難易度が八ってわけね」
驚くべきことに星八つが選択不可ではなかったので、物の試しに星八つのページをめくる。
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★★★★★★★★
・八岐大蛇を討伐せよ
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八つの首を持つ、見るからに凶悪な蛇神のイラストともに、死んでこいと同義でしかない命令が見て取れた。
悠希は無言のまま、戻る、戻れと強く念を送る。
その願いは届き、神託の最初のページへ本がパラパラとめくられていった。
問題なく戻ったことに、思わず安堵のため息が漏れた。
情けないことだが、心臓がバクバクと五月蠅い。万が一にも、間違って依頼を受諾なんてしていたらと思うと、ゾッとする。
「すーはー、すーはー、すーはー、すーはー」
彼は気持ちを落ち着かせるために深呼吸を繰り返した。
ある程度、予想はしていた。
そして、思い知らされた。星八つは普通に無理ゲーだった。
悠希は色々なゲームをプレイしてきた。今現在ハマっているカードゲームはもとより、ロールプレイングゲームもアクションゲームもやったことはある。
その経験から思ったのだが。
「大抵のゲームなら、星一つをある程度クリアしなきゃその上は見れないはずなんだが……」
そのシナリオをクリアしなければ次のシナリオへ進めない。
そのランクをクリアしなければ次のランクへ進めない。
だが、この世界の仕様は、それらに類似することはないようだった。
ゲームの常識がここでは通用しない。
いやと、頭を振る。そもそもとして、異世界に通じる常識なんかあるわけないか。
納得しつつも、なぜと思う。
(一刻も早くこの世界を救ってほしいってことか?)
悠希は頭を振る。
彼を召喚した神の考えがどうだろうが、知ったことではない。至極当然だが、今挑めば自殺願望者となるから、選択する気は微塵もない。
ひとまず星一つから順々にクリアして、少しずつ手札を増やすしか道はない。
初期山札とガチャ一枚では、選択肢はそう多くない。
気を取り直して、星一つの神託を確認する。
星一つでさえ、読み切れないほどの膨大な選択肢があったのだが、最初の七つを見て目を細める。
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★
・≪完了≫神々之恩寵を実行せよ
・≪完了≫【神降ろし】を一枚獲得せよ
・≪完了≫【神降ろし】を五枚獲得せよ
・≪完了≫【神具】を一枚獲得せよ
・≪完了≫【加護】を一枚獲得せよ
・≪完了≫【呪詛】を一枚獲得せよ
・≪完了≫【禁厭】を一枚獲得せよ
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「んん?」
悠希は急いで報酬一覧のページを開かせる。
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★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
★の神託を達成しました。≪報酬:神霊玉一つ≫
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悠希はさらに最初のページに戻る。
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名前 :神代悠希
位階 :一
固有能力 :【弱肉強食】
(神使)
固有能力 :【強制回帰】
(異界の巫)
神霊玉 :七
所持神符数 :三十一
神託
神々之恩寵
所持神符一覧
山札設定
報酬一覧
実績一覧
告知
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「よーし!よしよしッ!」
悠希は神霊玉の数を確認して、快哉の声を上げる。
この世界の人間にすれば、労せず神霊玉を得ることはチートだと納得できない者も出てくるだろう。
(だが、俺からしたら、そんなこと知ったことじゃない)
彼には協力者もいない。ほぼほぼゼロからのスタートなのだ。
手札を増やすためにも、死なないためにも、これはあって当然だと受け止める。
ちなみに、チートという横文字は大和では通用しないだろうが、そこは置いておく。
(さて、手札を増やすか)
悠希は神々之恩寵のページを開くと、一回をタップする。
七つあった神霊玉が二つに減る。
神々之恩寵――ガチャ――が回り、神書が自動的に所持神符一覧のページに移る。
悠希は新たに手に入れた神符の内容を確認する。
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【神降ろし】矢乃波波木神
神格《箒神》
属性《地》
翠玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
十秒間に一度、勾玉一つ分の呪詛を祓う。
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悠希はこの神降ろしの神符を知っていた。
(さすがに、そう何度も俺の知らないカードなんて出てこないか)
一度目の神々之恩寵の結果が衝撃的であったため、彼は少し身構えていたが、二回目は肩透かしといえた。
もっとも、手に入れた神符には満足している。
(純粋な戦力にはならないが、戦闘で保険がかけられるな。しかし、このカードも十秒間に一度か)
一ターンに一度が悠希の知識だったため、カード効果の確認をしてよかったと思う。これからも、何度もそう思うのだろうと予感した。
この後、星一つの神託において、「【神降ろし】を十枚獲得せよ」の神託が≪完了≫となり、神霊玉は三つとなった。
悠希は改めて星一つの神託の中で簡単そうなものをピックアップした。
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★
・邪神を一体討伐せよ
・夜刀神を討伐せよ
・荒狂河の地域を探索せよ
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夜刀神は水属性の蛇神である。
この神の攻撃力と防御力はそれぞれ「一」なので、一対一であれば問題ないと判断した。
ゲームでは何柱も場に出てきて面倒に思っていたが、神託のイラストには一柱のみ描かれているので、恐らく大丈夫であろう。
(どこにいるかも分からんから、エンカウントに期待するしかないが。頼むから不意打ちだけは勘弁してくれよ……)
荒狂河という名称は悠希には分からなかった。
地域と記載されているため、地名ではないかと考えている。
イラストは川が流れている平原だった。
正直に言えば何のヒントもない。
ただ、探索と書かれているだけだから、特別な何かをする必要はないと思われる。
「そろそろ動くか」
悠希は大和へ降り立つことを決めた。
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