第五話 初期山札②
悠希は陽属性の神符を確認する。
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陽属性
【神降ろし】奥津日子神
神格《竈神》
属性《陽》
紅玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
二時間、竈を使用可能とする。
【呪詛】鬼火
属性《陽》
紅玉《一》消費。
自陣に陽属性がいる場合、敵一柱の防御力を「二」減少させる。
【禁厭】浄火
属性《陽》
紅玉《一》消費。
自陣に陽属性がいる場合、敵の呪詛を一つ焼き祓う。
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(奥津日子神。こいつも俺の生活に必要な手札ってわけか)
現代日本であれば、その恩恵に魅力を感じないのだが、電気ガス水道が通っていないただの木造建築においては、評価が真逆に変わる。
生活になくてはならない神様だった。
【呪詛】鬼火についてであるが、防御力が零になった神は現世に留まれず、幽世へ強制的に送られる。
つまり、防御力が二以下の神に対して、この呪詛を発動した場合、戦闘前に倒せることを意味する。
幽世から現世や手札、山札へ復活させる巫術もあるが、今の悠希にその手段はない。
「さて、次は水属性か」
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水属性
【神降ろし】少名毘古那神
神格《温泉の神》
属性《陽・水》
紅玉《一》消費。蒼玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
竈神を神降ろししている場合、風呂の湯を満たすことが可能となる。
【神降ろし】泣沢女神
神格《井戸の神》
属性《水》
蒼玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
井戸の飲み水を満たしてくれる。
【禁厭】火伏せ
属性《水》
蒼玉《一》消費。
自陣に水属性がいる場合、火属性の敵攻撃力を「二」減少させる。
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「風呂は……必要だな。絶対」
悠希は飲み水を得た喜びと同じくらい、風呂に惹かれてしまった。
悠希がいる木造家屋に食料は一切ないが、竈や井戸、風呂はある。
上書きされた記憶にこの家については、しっかりと触れられていた。
それゆえ、陽属性の奥津日子神はもとより、少名毘古那神も泣沢女神も宝の持ち腐れにならずに済んだのである。
(家造りから始まらなくてよかったよ、ホント。神はいるのに使えないとかなったら地獄以外の何物でもない。この家を誰がどんな目的で用意したのかは記憶にもなかったが……)
悠希は疑問を頭の片隅に留めておき、次の属性へ進める。
道俣神はすでに確認済みのため、和魂属性については残る二枚の神符である。
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和魂属性
【神降ろし】道俣神
【神降ろし】大口真神
神格《犬神》
属性《和魂》
白玉《一》消費。
攻撃力《二》。防御力《二》。
白狼。
【加護】癒しの霊薬
属性《和魂》
白玉《一》消費。
自陣の神の防御力を「二」回復させる。もしくは敵一柱の攻撃を「二」軽減する。
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(大口真神。勾玉は各色二つあるとはいえ、それで出せる現状、俺の最高戦力)
生活に恩恵を与える神を除けば、大口真神がメインとなる戦力となる。
悠希には望ましくないことだが、戦闘をより多くこなすのであれば、この神符を積極的に活用することになるだろう。
悠希はもう一つの神符に注目する。
(回復系の神符が、一つは欲しかった。効果も俺の知ってる内容だ。助かった……)
ゲームであれば、特段気にしなかっただろうが、現実になってしまった。
現実であるなら、回復手段は多いに越したことはない。
そして、「敵一柱の攻撃を「二」軽減する」という効果が、実は重要であった。
これは神同士の戦いだけに使うのではなく、敵から巫――プレイヤー――への直接攻撃を防ぐことが可能なのだった。
(仕様が若干異なっていても、これの効果は記載されている以上変わらないはずだ)
神世大戦では、巫の体力として二十が設定されていた。ライフポイントと置き換えてもよい。
ゲームでは、体力が尽きると敗北が決定する仕様となっていた。
しかし、現実でそもそも体力があるのか怪しいと悠希は思い始めていた。
無防備な状態で邪神から攻撃されれば、あるいは巫が使役する神降ろしに攻撃されれば一撃死ではないかと怖気が走る。
その懸念があるため、癒しの霊薬は万が一の保険となる。
攻撃力「三」以上の邪神に狙われた場合は、その限りではないが。
悠希は最後の属性に移る。
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荒魂属性
【神降ろし】八十神
神格《神》
属性《荒魂》
黒玉《一》消費。
攻撃力《一》。防御力《一》。
【呪詛】常闇
属性《荒魂》
黒玉《二》消費。
敵一体の視覚を封じる。
【禁厭】影武者
属性《荒魂》
黒玉《一》消費。
敵一体の攻撃を肩代わりする。
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悠希は八十神を見て、ため息をつく。
(八十神。こう言ってはなんだが、俺の生活に彩りを与えるわけでもなく、純粋な戦力にもなりえず、壁役にしか使えないだろうただの雑魚神)
彼にとっては、初期山札三十枚においても、この神符だけはハズレだった。
しかし、荒魂属性の残り二つの神符は当たりといえた。
通常、加護や呪詛、禁厭は発動する際、自陣にその属性の神がいることが前提となる神符が多い。
その前提がない呪詛や禁厭を獲得できて、悠希は良かったと思っていた。
癒しの霊薬も同様である。
回復手段にその前提がないことは、本当に助かる。
悠希は思考を巡らせる。
(神降ろしに限定すれば、効果を除けば俺の知識どおりの能力値だった。他の神符については、俺の知識どおり。だが、まぁ、今後も神符を手に入れた際は、確認した方がいいな)
ひとまず、確認作業が完了したのだった。
「ガチャでまさかの逃走手段を手に入れたが、それはともかくとして、一度の戦闘はできるくらいの手札ができたってわけか」
初期山札があって良かったと悠希は思う。
ターン制があろうとなかろうと、カードゲームの世界へ転移して手札がないなんて事態は洒落にならなった。
次にするべきことは何か?
悠希は少しの間、黙考する。
(巫術の発動確認。神降ろしだな。大和へ行って、ぶっつけ本番なんてあり得ない。それにいい加減、喉が渇いた)
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