第二十九話 星七つの神託
(んー?)
悠希は星七つの神託に注目しながら首をひねる。
彼は当然ながら、星七つなんてまだ先だと思っていたため、その内容を確認したこともなかった。
悠希は星七つの神託を改めてみた。
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★★★★★★★
・≪完了≫邪神の攻撃または【呪詛】を受けて生還せよ
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悠希は少しの間硬直し、やがて震える声で言葉を絞り出す。
「……マジかよ」
彼は星七つという難易度の高さを正しく読み取って、戦慄で顔面が蒼白になる。
巫に体力など設定されない。
邪神の攻撃が直撃すれば死ぬ。呪詛も直接攻撃の類であれば、当然死ぬ。
武士型の巫であれば、神憑りした神の攻撃力や防御力を自身に上乗せできる――ように見える。
それが、事実かどうか悠希にはまだ確証が持てない。
彼が術士型の巫であることについては、揺るぎない事実であるからだ。武士型の摂理など推し量ることしかできない。
しかし、いずれにしろ、術士型の巫にそのように神の力を自身へと加算する術はない。
そうでなければ、この難易度の高さは説明できない。
神世大戦と現実の差異がまた新たに発覚した一幕だった。
(食らったのが魅了でよかった。でもって、私のために死ねとかいう命令じゃなくて、本当に……よかった……)
死への恐怖に慄きながらも、星七つの報酬を確認する。
半端なものでは許さないとばかりにマジで意気込みながら。
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★★★★★★★の神託を達成しました。
≪報酬:【神具】熱源感知機能≫
≪報酬:術士型能力【快癒】≫
≪報酬:神霊玉一つ≫
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「………………」
悠希は沈黙した。
【神具】熱源感知機能なんて神符も、術士型能力という単語も知らなかったからである。
ひとまず、彼は神書の最初のページを開く。
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名前 :神代悠希
位階 :四
固有能力 :【弱肉強食】
(神使)
固有能力 :【強制回帰】
(異界の巫)
術士型能力 :【快癒】
神霊玉 :五
神貨 :二
所持神符数 :五十九
神託
神々之恩寵
所持神符一覧
山札設定
報酬一覧
実績一覧
告知
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悠希が直感に従ったところ、最初の左側のページに術士型能力が追加されていた。
もし、追加されていなければ、山札設定に移るつもりだったが、その必要はなくなった。
早速、術士型能力の効果を確かめることにした。
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術士型能力:【快癒】
術士が致命傷を負った場合、心身を全快させることができる。
この能力は、一日に一度だけ発動可能となる。
発動条件として、山札設定にて術士型能力を指定する必要がある。
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さすが星七つの報酬だと悠希は感激した。
一日に一度とはいえ、破格の報酬だ。命を懸けた甲斐があるというものだ。
すぐに山札設定のページへ移動すると、山札設定というタイトルの右側に今まではなかった術士型能力という項目が追加されていた。
悠希はその項目を見ながら、推論を立てる。
(見たところ、一つしか設定できなそうだな。固有じゃないんだから、他にも術士型の能力を手に入れられる可能性はあると考えていいよな?)
しかし、仮に他の術士型能力を修得したとしても、山札に指定できる能力は一つだけのようだった。
ともあれ、有ると無いでは大違いである。
悠希は迷わず山札に快癒を設定した。
これで、一日に一度は死なずに済むと大いに安堵する。
次に神符である。
所持神符一覧のページへ遷移する。
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【加護】熱源感知機能
属性《陽》
紅玉《一》消費。
神気自動車にのみ発動可能。
万物の熱源を感知できるようになる。また、熱源の水準は操作可能である。
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悠希は呆れたようにため息をつく。
(神気自動車絡みなんて、そりゃ、知らんわ。……ただ、この熱源感知……この効果は試してみないと分からんが、もしかすると――)
実際にはどう感知できるのかは不明瞭であるが、もし人や神の熱源を感知できるのであれば、奇襲を受けることを回避できるかもしれない。
邪神は友好的とは程遠いが、巫も大して変わらない。
悠希からすれば荒狂河の一件は折角助けてやったのに、恩を仇で返された気分だ。
重兵衛という男が頭を下げてきたのに加えて、荒狂河専用の神託が出たから協力しているが、重兵衛なりあの姉妹なりが悠希を裏切ったり利用したりしようとすれば、彼は容赦なく切って捨てる所存だった。
そんな経験をしたからこそ、まだ出会ってもいない他の巫を無条件に信じられるわけがなかった。
利用するどころか、危険因子と思われて狙われる可能性がないわけがない。
仮に、ログインボーナスやら位階アップで聞こえてくる謎の声が保証したからといって、悠希には到底信じられない。鼻で笑ってしまうだろう。
そんな輩や邪神を含め、奇襲のリスクを軽減するかもしれないこの神符は実に検証しがいがありそうだった。
そして、図らずも星七つの神託を達成してしまった悠希には、やるべき作業が増えてしまった。
(……面倒だが、後で全部の神託を確認するしかないか。何かを知らなかったから死んじゃいましたはシャレにならん)
荒狂河専用の神託を除けば、星三つ以上の神託などやる気がなかった悠希だが、さすがに認識を改める。
続いて、荒狂河専用の神託の状況を確認することにした。
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★
・≪完了≫恍月を探索せよ
★★
・≪完了≫孤軍奮闘する戦巫女を手助けせよ
★★★
・八岐大蛇を封ずる禁厭を獲得せよ
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悠希は記されている内容を読んで、ふと思う。
(星一つはまぁいい。星二つは……夏月が見たら、絶対に猛抗議だろうなぁ)
見せる気はさらさらないが、もし見せたと仮定するなら、即ブチ切れる彼女の姿が容易に想像できた。
何せ、ほんの一時間前に見たばかりなのだから。
ともあれ、悠希はもらえるものは遠慮なくもらう次第である。
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★の神託を達成しました。≪報酬:白玉一つ≫
★★の神託を達成しました。≪報酬:大直毘神への挑戦券≫
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(期間限定のイベントクエストも、神霊玉が報酬ってわけでもないのね。にしても、大直毘神か。欲しいといえば、是が非でも欲しいが……挑戦券って何だよ?)
大直毘神は大禍津日神の対極に位置する神である。
なぜなら、その神格は厄祓の神だからである。
呪詛を祓うことができる神を欲するのは必然といえた。
悠希は疑問に思いつつも、報酬を受け取った。
受け取った後にふと思う。
どうやってその内容を確認するのか?また、どうやって使用するのか?
告知の欄が点滅していた。
深く考えずに告知のページを開き、「大直毘神への挑戦券」と追加されている項目をなぞってみた。
すると、いつもの声が響き渡る。
『邪神に取り憑かれ、自我を奪われかけている大直毘神に挑戦することができます。勝てた場合は必ず大直毘神を獲得できますが、負けた場合は死にますのでご注意ください。大直毘神に挑戦しますか?』
「いいえ!!」
悠希は腹の底からノーと叫んだ。




